long dreamB
□King & Queen
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時折雷鳴の光る暗く赤い空。
お世辞にも綺麗とは言えない景色なのに、どこか懐かしいと感じるのは未来に流れる闇撫の血のせいか。
はるか空へとそびえ立つ大きな御殿を見上げれば、忘れようとしていた緊張感が呼び覚まされる。
前回来た時は蔵馬が隣にいたが、今回は己のみ。
一人で黄泉と立ち会う不安にすくむ足を震い立たせ、御殿の敷地内へ未来は侵入した。
「や、闇撫の娘!?」
いるはずのない人物の登場に、ちょうど玄関前を歩いていた妖駄は驚愕する。
「ほう」
「よ、黄泉様!」
今度はいつの間にか背後に立っていた主人に驚いて、妖駄が声を上げる。
「未来さんの妖気を感じ、まさかと思って来てみたが‥‥素晴らしい。ここにいるということは、既に闇撫の能力を磨いたということか」
「はい」
満足そうに口角を上げた黄泉が問えば、静かに未来が頷く。
「蔵馬は一緒じゃないのか?」
「はい。私だけです」
蔵馬を伴わない来訪に、意外だという風に黄泉は両眉を上げる。
「蔵馬が一人で未来さんを来させるとはな。まあいい、中へ案内しよう。妖駄、給仕を」
「承知しました」
積もる話はゆっくり中でと、黄泉は未来を御殿へ招き入れた。
「期限より九日も早くワープ能力を身につけるとは。やはりオレの目に狂いはなかった。未来さんは類稀なる才能を持った闇撫だ」
前回来訪時と同じ客間の和室へ未来は通され、机を挟んで黄泉と向かいあった。
「しかも未来さん自ら報告に出向いてくれるとは。嬉しいよ。オレは優秀な部下を持った」
耳障りの良い言葉を並べながら、黄泉は妖駄が給仕した茶と菓子に口をつける。
「実は、今日は報告のためだけに来たんじゃないんです。どうしても訊きたいことがあって」
勝手に部下扱いされている点はこの際言及せず、真剣な面持ちで未来が切り出す。
「三週間前に伺った後から、不思議な症状に私は悩まされてるんです」
「不思議な症状?」
「単刀直入に聞きます。私の身体を誰かに乗っ取らせましたか!?」
鬼気迫る表情の未来からの、思いもよらない詰問に黄泉は面食らう。
「そうなら早く抜き取って下さい。寄生される経験なんて仙水の魂で十分です!もう懲りごりなんです!」
「何をワケがわからぬことを‥‥黄泉様、こんな戯言に付き合う必要はありません」
傍で控えていた妖駄が進言するが、黄泉は沈黙し考え込むように口元に手を当て未来と対面している。
探るような視線を向けられていると、未来は感じる。
黄泉の両瞼は確かに閉じられているというのに。
「空か?」
「カラ‥‥?」
黄泉が口にした聞き慣れない単語に、首を傾げる未来。
「空。いるなら出てくるんだ」
空のように小さな妖気を探ることは、黄泉含め多くの妖怪が不慣れだ。
いつも相手にするのは大きな妖気の持ち主。
小さな雑魚妖怪など眼中にない。気に留める必要もなかった。
視界に入れない生き方をしてきたが故、未来の発言を聞くまで彼女に宿る空の存在に黄泉は気づかなかった。
「分からないか?これは国王命令だ」
二度目の命に、ようやく空は観念した。
「うっ‥‥」
突然、体内を虫が這い回るようなひどい不快感が未来を襲った。
ケホッと咳き込んだ拍子に己の口から出てきたモノに、未来の顔から血の気が引いていく。
「さすが黄泉様。よくお気づきで」
うごうごと形を変える枯れ木のような妖怪が、姿を現したからだ。