long dreamB
□9人いる!
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「皆お疲れさま!飲み物冷やしてるよー!」
今日も厳しい特訓にへとへとになった六人が最後の力を振り絞り、幻海邸の縁側まで駆けてくる。
「勝負だべ!」
「うおおおお!」
「負けるかあああ」
「また今日も競争してるんだ」
必死の形相で縁側に雪崩込んできた三人に、吹き出してしまう未来。
「はい、陣が一位ね!」
酎と鈴駒をおさえ、一等で未来の元へゴールしたのは陣だ。
「敗因は‥あれか…スタートダッシュの‥遅れか…」
「陣の‥動きには‥ブレが‥なかった…」
ぜーぜーと息も絶え絶え反省会を開いている酎と鈴駒を尻目に、一番に到着した陣へ未来はスポーツドリンクの入った水筒を渡してやる。
穏やかな歩調で向かっていた凍矢、鈴木、死々若丸も遅れて到着した。
「サンキュー!」
一気に飲み干した陣は未来へ目を止めると、じっと顔を近づける。
「陣?」
まじまじと至近距離で見つめられ、しかも陣が珍しく真面目な表情をしているものだから未来は困惑してしまう。
「私の顔に何かついてる…?」
「未来の風の匂い、ちっと前から変だべ」
「変‥?」
ますます困惑する未来に、陣が大きく頷く。
「んだ!嫌な匂いがするだ!」
ドストレートな陣の台詞は、ガーーンと大きな岩石となって未来の頭を直撃した。
「陣!」
「このやろ!」
「あだっ」
間髪入れず、酎と鈴駒から陣へ鉄拳がお見舞いされる。
「未来のどこが臭いってんだ!むしろフローラルな良い香りだ!」
「未来はオイラの理想の匂いだよ!臭いなんて女の子にかける言葉じゃないんだからな!」
「あまりにもデリカシーに欠けている!汗臭いのは未来ではなくオレたちだ!」
「陣、あろうことか臭いとは‥‥。今のはお前が悪い。未来に謝れ」
「オレ、臭いとは言ってねえだ!」
少々変態ちっくな発言をする酎と鈴駒、鈴木、凍矢から一斉に責められ、四面楚歌の陣が喚く。
「……貴様ら、あまり臭い臭い言ってやるな」
皆が口を開くたび傷口をえぐられている未来を見兼ね、あの死々若丸がフォローにまわる始末である。
「オレ、未来の風の匂い好きなんだべ。それが最近ちっと変わった気するだ。嫌な風が混じった感じだべ」
「風の匂い〜?」
陣以外はちっとも分からない感覚に、意味不明だとクエスチョンマークを浮かべる一同である。
「そんな非科学的な理由で臭いと言いがかりをつけられた未来が可哀想だ!」
「鈴木‥‥フォローしてくれるのはありがたいけど、私一応臭いとは言われてないんだよ」
熱を込めて庇ってくれる鈴木に、おずおずと未来が述べる。
「仮にそう思ったとしても腹の中でこらえておけ、陣。未来、すまないな。陣に全く悪気はないんだ」
「う、うん。大丈夫」
「それに、変な匂いはしないから安心しろ。陣の気のせいだろう」
凍矢の気遣いに安堵し、未来の心は幾分軽くなった。
「武術会の時はだいぶ人間臭かったがな」
「死々若、め!」
死々若丸の意地悪発言を鈴木が窘めるのはお決まりの光景である。
「未来、ごめんな?」
皆から説教された陣が、耳をしょぼんとさせて未来に謝る。
「いいよ、陣!私も良い風の匂いになれるよう意識して頑張ってみるからさ!」
「どうやってだよ!?」
鈴駒がツッコミ、場は笑いに包まれてまた和やかな空気が戻ってくる。
(そう、陣の気のせいだろう……)
いやに動物的勘がはたらく陣の主張も、今回ばかりは思い過ごしだろうと考える凍矢なのだった。