long dreamB
□謁見の火種
1ページ/7ページ
(蔵馬まだかな…)
微妙な味のオムライスを平らげた昼食後、蔵馬の来訪が待ちきれず未来はそわそわと落ち着かない気分でいた。
(来た!)
ピンポーンと呼び鈴が鳴り、弾けたように立ち上がった未来が玄関まで急ぐ。
「……あれ?」
玄関扉を開けるも蔵馬はおらず、全くの無人であるように見えたが。
「ここじゃ!ここ!」
低い位置から聞こえる声に目線を下げれば、未来のへそあたりまでしかない身長の年老いた妖怪が立っていた。
「幻海師範への霊相談で訪問された方ですか?」
幻海の客かという質問に答えず、長い口髭を蓄えた老妖怪はじっと未来を品定めするように眺めている。
「妖気に混じる人間の匂い…やはり闇撫の娘か」
「え?」
どうして自分が闇撫だと知っているのかと、怪訝に眉を顰めた未来。
「御挨拶が遅れましたな。ワシは癌陀羅で黄泉様の秘書を務める妖駄という者です」
「黄泉って…蔵馬の古い仲間の!?」
「黄泉“様”じゃ!」
未来が黄泉を呼び捨てにすると、目の色を変えて妖駄が怒鳴る。
「じゃあ蔵馬の知り合いで……?」
「いかにも。御主は闇撫の未来という者じゃな?蔵馬から話を聞いたことがある」
「なんだ、そうだったんですね!」
目の前の老人の素性が判明し、未来が抱いていた警戒心も緩んだ。
「今日は蔵馬が鍛えておる六人の様子を視察にな。強い妖力をお持ちの黄泉様は人間界との間の結界に阻まれてしまうからの。ワシが代理で参った」
「皆、すごく修行頑張っててどんどん強くなってるみたいですよ!」
「それはよかった。ところで、この結界を解いてはくれぬか?これ以上先に進めんのじゃ」
「ああ、それ霊界避けで…」
「未来。客かい?」
こちらへやって来た幻海の声に、未来が振り向く。
「師範!こちら、黄泉…様の秘書の方らしいんですけど」
ジロリと妖駄に睨まれ、言うこと聞かなきゃ煩そうだなと感じた未来は一応黄泉を敬う体をとった。
「黄泉の秘書だって?」
「これ、様をつけんか様を!……な、なんじゃその目は!」
敬称を省くなと憤慨する妖駄だったが、鋭い幻海の視線に晒され身が竦む。
「あんた、何企んでんだい」
「ワ、ワシはただ黄泉様のご命令で六人の修行の様子を見ようと…」
すっかり妖駄は威勢をそがれ、まさに蛇に睨まれた蛙である。
「生憎だけど、この結界内には身内以外入れることは出来ないよ。さっさと帰りな」
「な!それは出来ん!ワシには黄泉様にご報告の義務が」
「六人の進歩はすこぶる順調。稽古つけてるあたしが言うんだから間違いないよ。黄泉にもそう言っときな」
「だ、だから様をつけろて」
「じゃあね。もう来んじゃないよ」
「こら話はまだ、ぎゃ!」
気功波で妖駄の身体を吹き飛ばすと、有無を言わさずピシャッと玄関扉を閉めた幻海であった。
「師範すご……ってよかったんですか!?あんな乱暴に追い出しちゃって」
容易く妖駄をあしらい追い出した幻海の神業に、呆気にとられていた未来がオロオロして訊ねる。
「だいぶ手加減はしてやったよ。結界は解けないし部外者は入れるわけにはいかないからね。何より、あいつはな〜んかいけ好かないよ」
幻海の直感が、奴を家の中に入れるべきでないと告げていたのだ。
「あんたを値踏みするような目も気に入らないかったしね」
「値踏み…されてました?言われてみれば嫌にジロジロ見られたような」
「そんなに闇撫が珍しいのかね、まったく」
異世界から来た人間という物珍しさから未来が暗黒武術会の景品にされてしまったことを思い出し、幻海が顔をしかめる。
「でも、黄泉直属の部下らしいですよ?癌陀羅での蔵馬の立場が悪くなったりしないかなあ」
「なあに、蔵馬なら上手く立ち回るだろう」
あっけらかんと言い放つ幻海に、苦笑いの未来なのだった。