long dreamB

□リリック
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幽助が語り終え、話題はそれぞれの近況へ移った。


「オレは進級試験で落ちねーよう必死で勉強してるぜ。補欠入学はツレーわ」


口ではそう言っているが、念願叶えて志望校に合格し努力を重ねている桑原の高校生活は充実しているようだ。


「私も。勉強しなきゃって思うだけでなかなか進まないけど。蔵馬はどこ受けるの?」


「オレ、大学は受けないことにしたんだ」


大学受験の近い未来が同学年の蔵馬に訊けば、意外な返事がかえってきた。


「えー!どうして?もったいない!」


「義父の会社の方が面白そうだからね」


そろそろ学生に飽きていた蔵馬は、新たなステージで働いてみたくなったのだ。


「じゃあ幽助だけじゃなくて、来年からは蔵馬も社会人になるんだね。みんな大人になっちゃうな〜」


「未来、一人忘れてますよ」


クスッと笑って、蔵馬が飛影を指差した。


「飛影も社会人?なのか?」


飛影が社会人にカテゴライズされるのか、甚だ疑問の幽助が眉を寄せる。


「そうだった!パトロールしてる飛影も社会人だよね。煙鬼が雇ってるから、公務員みたいな感じ?」


治安の改善は就職率の向上から。
人間界の制度を見習い、福利厚生の充実した就業制度を魔界全土で構築しようと煙鬼は尽力しているらしい。


盗みや殺害の横行していた魔界は、これからどんどん住みやすく平和な環境へ変わっていくだろう。


「えー!こいつ一丁前に仕事してんのかよ!給料もらってんならオレらが割り勘して払った電車賃やメシ代返せや!」


驚愕し、一年以上前の代金を飛影へ請求する桑原である。


「未来ちゃん、彼氏が無職じゃなくなってよかったな!」


がははと豪快に笑う桑原を、ムッとした飛影が睨む。


「未来は四谷大受けるんだっけ。こんなとこで遊んでて大丈夫なんですか?」


「あ、明日からまた頑張るから!」


からかい口調の蔵馬に不安を煽られ、危機感に襲われるも大丈夫と主張する未来。


「飛影、最近未来が勉強で忙しいんじゃ会えなくて寂しいんじゃねーか?」


「騒がしくなくてちょうどいいな」


「おーおー、強がっちゃって」


幽助に茶化されるも、涼しい顔をしている隣の飛影の横顔を未来は盗み見る。


(私は寂しいけどな)


受験がいよいよ近づき、勉強に本腰を入れるため未来は飛影と会う頻度を減らしていた。


(もっと会いたいけど、受かるまでの我慢だね)


飛影との時間は楽しい。
未来の一番の癒しだった。


今日何をしたかとか。
何を食べたとか。
どんな思いをしたとか。


何気ない日常の小さなことを、大切な相手と交わす幸せがきっとひとには必要なんだと思う。


嬉しいことがあった時は、飛影に報告したくなる。
悲しいことがあった時は、飛影に抱きしめてほしくなる。


他の人に言うのは憚れても、飛影になら話せることがある。
飛影にだけ見せる顔が増える。


付き合う前より、ずっと飛影は未来にとって気を許せる相手になっていた。


(飛影も私と同じ気持ちだといいな)


心の距離は近づいていると感じている。
飛影もたくさん、未来に伝えてくれるようになった。


魔界の雷の音はゲームバトラー2の効果音に似てるとか。
鼻がバカデカい妖怪が救出した人間の屁で倒れて百足内が一時騒然となったとか。
戸愚呂兄にそっくりの妖怪がいて一瞬本人かと思ったけどよく見たら全然似てなかったとか。


きっと飛影が未来にしかわざわざ話さないような、至極どうでもいい話。


そんなくだらない話で二人は笑いあえたし、おかげで未来は会ったこともない百足の妖怪たちや魔界事情に詳しくなった。


飛影の方も、未来の家族や学校行事なんかにだいぶ詳しくなっているはずである。


「未来、何ニヤニヤしてんだよ」


「えっ私笑ってた!?」


幽助に指摘され、未来が頬をおさえる。


「飛影の同僚が人間のおならで倒れた話、思い出してたからかな」


「はー!?なんだよそれ!?」
「マジか!?」


興味津々の幽助と桑原が身を乗り出す。


「ほんとだよ。飛影から聞いたんだけどねー」


カラカラ笑う未来の横顔を、幾分目元を和らげて、今度は飛影が眺めていた。


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