long dreamB

□ギフト
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「何か用か」


大きなソファベッドの真ん中に座る軀は、部屋を訪問してきた部下へ忌々しげな視線を投げかける。


なるほど、たしかに機嫌は相当に悪いようだ。


「未来からお前に渡せと言われた」


飛影が未来の名前を出すと、軀の表情が柔らかくなる。


「そうか。これは人間界の果物か?」


未来からの贈り物が嬉しいようで、受け取った紙袋を覗く軀の声が弾む。


「ああ。皮をむいて食べるらしいぜ」


「わかった。未来によく礼を言っといてくれ」


話を切り上げたつもりの軀だったが、飛影は立ちっぱなしで一向に帰ろうとしない。


「どうした。まだ何か用か」


「退屈だ手合わせ願いたい。本当の力を出したお前とな」


「行け。今日は生憎そんな気分にならん」


苛々した口調を隠そうともせず、軀が一蹴した。


「奴隷商人痴皇」


軀の父親の名前だ。
瞬時に軀の目の色が変わり、表情はまた険しいものになる。


「時雨との闘いのあとでお前がオレに見せた記憶。それが今の強さの動機だろう」


軀の図星を突いた飛影が、彼女の過去の記憶を否が応でも呼び覚ましていく。


軀は生まれた時から父親の玩具奴隷だった。
七歳の誕生日に軀が自ら酸をかぶり父親に捨てられるまでそれは続く。
軀が抗うほど父親は喜んだ。


「もう…よせ」


「なぜ奴を生かしておくんだ?奴が住む場所も知っているんだろう」


「やめろ。死にたいか」


疼く右腕を必死に抑える軀。こうでもしないと周りにあるもの全て破壊してしまいそうだった。


「あいつが昔唯一気まぐれに見せた優しさにすがっているのか」


飛影は挑発をやめない。
ドクンドクンと軀の脈は速くなり、額に嫌な冷や汗をかく。


「お前が強くなれたのは呪いのおかげじゃない。迷いのせいだ」


ギリ。
軀は血が滲むほど右腕を強く掴んだ。


「あわれな野郎だ」


ドン!!!と轟音がとどろき百足が大きく揺れる。


我慢できなくなった軀が、飛影の腹を渾身の力で思いっきり殴ったのだ。
飛影の身体は壁をぶち破り、要塞外まで吹っ飛ばされた。


「軀様!一体…!?」


奇淋や時雨をはじめとするパトロール隊のメンバーが、何事かと部屋へ駆けつけた。


「このまま進め」


「し…しかし」


「お前も殺されたいのか?」


氷のような目で軀に一睨みされれば、口答え出来る者などいるわけがない。


重傷を負い外へ投げ出された飛影を置いて、百足はそのまま魔界を進むのだった。









時を同じくして、霊界。


突如ぞくりとした悪寒に襲われ、未来が自分を抱き締めるようにして両肩を触る。


「未来、どうしたんだい?」


隣に座っているぼたんが、小首を傾げて未来の顔をのぞき込む。


「ちょっと寒気がして」


「未来さん、寒いですか?毛布持ってきましょうか?」


「ありがとう、雪菜ちゃん。大丈夫だよ!」


雪菜の気遣いに感謝し、ニコッと微笑む未来。


ラフランスを差し入れついでに、未来は霊界へ遊びに来ているのだ。


「寒気って…やだ、嫌な予感ってやつかい!?」


「でも私、静流さんみたいに霊感ないし。何でもないと思うよ」


心配するぼたんに、顔の前で手を振って未来は否定する。


「和真さんも、霊感が強いんでしたっけ」


「うん。そうだよ!桑ちゃんちは霊感が強い家系らしくって」


「そうですか…」


桑原のことを思い出しているのだろうか、ふんわりと雪菜が微笑む。


一段と柔らかく変化した雪菜の表情に驚き、未来とぼたんは顔を見合わせた。


「……雪菜ちゃん、桑ちゃんに会いたい?」


「ええ。もちろんです」


にこっと無垢な笑顔で雪菜が頷く。


雪菜が桑原に抱く感情が、どういう類のものなのかは分からないが…。


(桑ちゃんも、雪菜ちゃんを恋しがってたな…)


会いたいと、互いが思っているのは事実だ。


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