long dreamB
□未来
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「あ、ああ……」
飛影に諌められ、幽助が慌てて手を引っ込める。
(幽助に私のこと触るな、なんて…)
驚きとドキドキに、熱くなる頬を両手で抑える未来。
目を丸くし固まっていた幽助だが、徐々にニタ〜と口角を上げて悪い顔になった。
「いや〜、飛影、悪かった!」
「その顔やめろ」
ニヤニヤ笑みを浮かべている幽助に、苛々が募る飛影である。
「未来、飛影の試合のことは気にしなくて大丈夫だな!試合放棄しても愛しの未来を助けに行けて、飛影は全っ然後悔してねーみたいだからよ!」
「ちょっ…幽助!」
“愛しの”の部分を不自然に協調して大声で叫んだ幽助に、未来はおろおろする。
「未来と飛影がデキるとはなー!めでたいめでたい!あー、早く桑原に話してー!」
幽助が冷やかす度、照れてどんどん俯いていってしまう未来。
「ねねね、未来の治療が終わった後キミたち二人で何してたの?」
「うるさいな!」
チューしまくってました、と正直に言えるわけがなく、怒鳴るしかない飛影である。
「未来、こんなバカは放っておいてさっさと人間界へ行くぞ」
あーなんだよバカって!と憤慨する幽助を無視して、飛影が未来を誘う。
「まあ、魔界だと瘴気があるしな。飛影を心配させねーためにもさ、もう未来は帰った方がいいな」
「そうだね、そうする。また倒れちゃいけないもんね」
幽助にも促され、未来は人間界へ戻ることに決めた。
「幽助、試合応援してるよ」
「おう。蔵馬や陣たちにも、未来は元気だったって言っとくぜ」
「ありがとう!皆にも頑張ってって伝言よろしくね!」
片手を上げ未来に応えると、幽助は雑踏の中へ消えていった。
「未来、幽助の言う通りだぜ」
その背中を見送った後、ポツリと飛影が呟く。
「試合のことはお前が気にする必要はない。勝手にお前を助けに行ったオレの都合だからな」
あの時、飛影は自分の試合のことなんて頭から吹っ飛んでいて、未来に指摘される今の今まで忘れていた。
そりゃあ試合に出られなかったことが悔しくないと言ったら嘘になるが、未来の回復を見届けることができ、後悔は一切なかった。
「うん…飛影、ありがとう」
それでも、自分が瘴気の危険性を考慮していたらあの場で倒れることはなく飛影は試合に出ていただろう。
自責の念は尽きないが、飛影の口ぶり、表情が“もう謝るな”と告げていたので、未来は言及するのはやめておいた。
「言いたいことは山々あるが、今日のお前の奇行についてもオレは責めん」
「あー…はい。察しました」
危険を顧みずこんな大会に出場したことを、飛影は怒っているのだろうなと未来は悟る。
「でもさ、こんなこと言ったら飛影は怒るかもしれないけど…私、大会に出たことは後悔してないんだ」
“一生懸命特訓して力磨いて、精一杯この大会の試合に挑んだあとなら……なんだか胸張って飛影に会いに行けるような気がするんだ”
軀に語ったあの言葉通り、未来は今とてもすがすがしい気持ちでいる。
「飛影?どうしたの?」
てっきり怒るかと思いきや、困ったような表情になった飛影が不思議で未来は小首を傾げる。
「いや…」
飛影は、たまらなく嬉しかったのだ。
未来の試合を通して、彼女の覚悟、決意…そして飛影への想いを知って。両想いだと分かって。
しかし、それを伝えると未来の危険な行為までも肯定してしまうような気がして、何より照れくさく、言うのはためらわれた。
「未来。もうオレに相談なくあんな危ないマネをするなよ」
だから、絶対に守ってほしい一言だけを未来に告げる。
「うん!」
未来も大きく頷いたのだった。