long dreamB
□雪菜
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自室にてさめざめと泣いている未来の背中を、静流がさすっている。
「飛影くんと何があったか聞いていい?……ごめんね、あたしがけしかけたせいで」
「っ…静流さんのせいではないです!」
脈アリだと軽率にけしかけたことに責任を感じる静流だが、未来が即座に否定する。
そして、百足内での出来事をざっくりと説明した。
「飛影くん、本当に未来ちゃんが来てたこと分かってたのかな?扉越しに彼の声聞いただけで、直接会ってはいないんでしょ?」
未来の話を聞き終わり、生じた疑問を静流は口にする。
「私の妖気を躯の部屋の中に感じただろうから、分かっていたはずです」
「でも妖気って小さいものは意識的に探ろうとしないと分からないし…それに未来ちゃんの妖気、かなり変わってるよ」
「変わってる?」
「うん。闇撫の能力を極めるにつれて、自分では分からなかったかもしれないけど未来ちゃんの妖気、どんどん変化してるよ。元の妖気しか知らない飛影くんは、未来ちゃんだって気づかないと思う」
「でも……そうだとしても、関係ないという発言は事実ですから」
自分で言っていて悲しくなってきた未来が深く俯く。
「私、分からないんです。自分が飛影に何をしてしまったのか。躯に殺した女なんて罵られるほどのことをしてたのに」
ポツリポツリと、心境を吐露し始める未来。
「分からない自分がこわくて。でも…躯の発言を思い返せば、もしかしたら飛影の過去と関係があるのかもしれないです」
「飛影くんの過去?聞いたことないけど…」
「私も知りません」
哀しそうに眉を下げて、未来が首を横に振る。
飛影が己の過去を躯には話したのだと思うと、モヤモヤしたものが未来の胸の内で広がった。
“お前、どうして元居た世界に一度帰ったんだ?”
“家族がいるから、だけど…”
“飛影の過去を知っていて、奴に告げた答えがそれか”
飛影の前で、家族という言葉は禁句だったのだろうか。
その仮説に行き着くと、心臓をギュッと強く掴まれたように胸が苦しくなる。
“お前は知らないだろうな”
躯の燃える怒りを孕んだ、あの鋭く厳しい眼差しが忘れられない。
「何気なく私、無神経な発言してたのかなって…」
飛影の冷たい言葉を聞いて、どん底に落ちた未来。
気づいたら足が動いていて、逃げるように帰ってきた。
「未来ちゃん、知らないなら、分からないならその場で飛影くんに聞けばよかったのに」
「本当、その通りですよね。私、自分がこんなに臆病だったなんて知らなかった」
逃げ帰ってしまったのは、飛影に会わす顔がなかったからというよりは、飛影に会うのがこわいからだった。
顔を合わせて、目の前で飛影に拒否されるのがこわいのだ。
その時、自分は本当に精神的に壊れて立ち直れないんじゃないかと未来は思う。
「せっかく手を伸ばせば届く距離に来たのに逃げ帰っちゃって、呆れますよね。躯が招待してくれるなんて、こんなチャンスもう二度となかったのに…」
「未来ちゃん…」
頬を涙で濡らした痛々しい未来の姿に、静流はかける言葉が見つからない。
「飛影に嫌われるようなことしてたなら…理由を知って謝りに行きたい。けれど、今は飛影に会うのがこわくて」
「会いに行ける勇気を持てた時にまた魔界へ行くのは?」
静流の声に呼応するかのように、部屋の壁に八の字眉になった裏女が現れた。
「魔界には連れていけるけど、飛影のいる場所までは分からない、申し訳ないって言ってます」
「そ、そう…」
突然現れた裏女とナチュラルに通訳する未来に、ツッコミたくなる気持ちをなんとか静流は抑えた。
「あ…でも、飛影の過去について知りたかったらアテは霊界にあるかも」
ふと未来の頭に浮かんだのは、飛影の妹であり現在は霊界にいる雪菜の顔だった。
「本当!?なら今すぐ霊界に行ってきなよ!あたしからの命令!」
目を輝かせた静流が、思い立ったら即行動!と未来の背中を強く叩く。
「飛影くんが好きって話す未来ちゃん、すっごく可愛かったよ。応援したいって素直に思った。簡単に諦めてほしくないんだよね」
そんな風に言われたら、断ることなんてできない。
未来は静流に促されるまま、霊界行きを決意するのだった。