long dreamB
□雪菜
2ページ/6ページ
暗闇に包まれたかと思えば、ぺっと裏女の口から未来と桑原は吐き出された。
「いてて…どこだここは?」
桑原が辺りを見回せば、見覚えのある景色に、魔界よりも澄んだ馴染みの空が広がる。
「未来ちゃん!?カズも!」
「一体何があった!?」
縁側に座っていた静流、幻海が立ち上がり二人に駆け寄った。
「オレも何が何だか…」
どういう訳か知らないが、桑原と未来は裏女に幻海邸の庭まで連れてこられたらしい。
「この妖怪は!?」
「オレらは魔界で突然そいつの口に放り込まれたんだ。樹がつれてた妖怪とそっくりだぜ。あっちが裏男ならこっちは裏女ってところか」
大きな妖怪を静流が見上げれば、桑原が己の身に起きた状況を説明する。
「どうやら未来のことを主人として慕っているようだね」
未来の方へ熱い視線を送っている裏女に気づいた幻海。
「え…!?」
ずっと黙っていた未来が思わず声をあげると、裏女は肯定するようにお辞儀し敬礼してみせた。
「主を探して次元の狭間をさまよっていた最中に、魔界へ来た闇撫の未来を見つけたってところか。あんたもまたえらいのに懐かれたね。ここまで連れてこいってこいつに命令でもしたのかい?」
「いや、命令はしてないですけど…」
幻海に訊かれ、ちらっと未来が裏女の方を振り向くと、不思議なことに彼女の意識がぼんやりと伝わってくるような感覚がした。
「私が帰りたがってたから、ここへ連れてきてくれたんだって」
「未来ちゃん、こいつの思ってることが分かるのか!?」
「ほう、さすが闇撫だね」
新たな才能をみせた未来に、感嘆する桑原と幻海である。
「帰りたがってた?未来ちゃんが?」
驚いて目を丸くしたのは、未来の恋愛相談にのっていた静流だった。
「……はい」
その問いに、ピクッと小さく肩を揺らした未来が頷く。
(ああ、だめだ……)
思い出すと、裏女が登場した衝撃で一時引っ込んでいた涙がまたすぐにでもあふれ出しそうになる。
「っ…ごめんなさい!」
「未来ちゃん!」
これ以上ここにいると、皆の前で泣いてしまいそうだった。
駆け出した未来の背中を、静流が追いかける。
「こういうのは静流に任せておいた方がいいかもね」
飛影がらみで何かあったのだろうと、なんとなくだが察した幻海がぼそっと呟く。
「あの子があんなに取り乱すなんて、飛影と何かあったのかい?」
「未来ちゃんが言うには飛影は未来ちゃんに会いたくない態度とってたらしくてよ」
「何だって?」
にわかには信じ難く、思わず幻海は聞き返していた。
「可哀想になっちまうくらい、未来ちゃんショック受けてたぜ」
飛影が未来ちゃんに会いたくないわけねーと思うんだがなァ、と空を仰ぎ桑原がぼやく。
「今はそっとしておいた方がいいのかなやっぱ…だーっ!わかんねー!何が正解だ!?ったく何やってんだ飛影の奴は!」
「とりあえずあんたは今日の事は忘れて目の前の受験に集中しな。ここからはあの子の問題だからね」
失恋した仲間、しかも女の子である未来への接し方が分からず、何もできないふがいなさと飛影への怒りに頭をかく桑原へ、幻海が助言する。
「あんたが気に病んで不合格になった方がもっと未来が落ち込むことになるよ」
「縁起でもないこと言うなよばーさん!」
想像するだけでゾッとして、身震いする桑原である。
「蔵馬はとっくに学校に戻って勉強中だ、あんたも帰りな」
昼休み学校を抜けて未来と桑原の見送りに来た蔵馬だったが、もう午後からの授業へ出席するため帰ったという。
「さ、分かったら早く行く!」
「いででわかったよばーさん!」
桑原も勉強に集中しろと、強く背中を押し強制的に帰らせようとする幻海なのだった。