long dreamB
□チョコレートの行方
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バレンタインデー当日、未来はそわそわしながら軀の使い魔の到着をリビングで待っていた。
指定時刻の正午まで、まだ少し時間がある。
「未来ちゃん、お邪魔してるよ」
「静流さん!」
桑原より先に幻海邸を訪れたのは、姉の静流だった。
「その紙袋、飛影くんへの?」
「はい。何を渡すか迷ったけど、結局王道のガトーショコラにしました」
「いいね、本命っぽい!」
その通りなのだが、“本命”という言葉に照れてしまう未来。
(飛影、喜んでくれるといいな…)
お菓子作りの腕はこの二週間で以前より上がったと思うが、やはり緊張する。
「編み込みしてるし、なんか今日気合入れてない?すっごく可愛いよ!」
静流に褒められ、ヘアアレンジやメイク、服にいつもより気をつかってよかったと喜ぶ未来だったが。
「これで告白準備ばっちりだね!」
静流の次の発言に、しばらく固まった。
「こ、告白!?無理ですよ!」
飛影が自分のことを恋愛対象として見ているのかも分からないのに、再会していきなり告白だなんて芸当は未来には出来ない。
「あ、そうなの?てっきり告白する気満々なのかと思ってた。じゃあ今日なんて言ってチョコ渡すつもりだったの?」
「それは…」
飛影と再会したら、まず何を喋ったらいいのだろう。
今まで考えたことはあったが、答えが出てくることはなかった。
「実際、その場面にならないと分からないかもしれないです…胸がいっぱいで、何も言葉が出てこないかも」
未来の気持ちが分かるのか、静流はうんうんと頷いた後、一つこれだけは言っておこうと口を開く。
「飛影くんはどうせバレンタインなんて風習知らないだろうから、今日は好きな男の子にチョコを贈る日だってことはちゃんと伝えて渡さなきゃね!」
「それって告白したも同然じゃないですか!?」
「それでいいのよ。まずはアプローチして意識させなきゃ」
アドバイスにたじろぐ未来だったが、静流はしれっと言い切った。
「未来ちゃんが告るの無理なら、向こうにしてもらう必要があるしね。たしかに女としては、決定的な言葉は男側から言ってほしいしさ」
告白はするものではなくさせるもの、とは未来もよく耳にするフレーズである。
「未来ちゃんが好意匂わせてれば、飛影くんも男なんだし、そのうち気利かせて告白してくるって!大丈夫、だいぶ脈アリだと思うからさ」
「そうですかね…」
静流から太鼓判を押されるも、仲間として飛影に大事にされているとは思うが、恋愛対象としてはどうなのだろうか自信が持てない未来。
(まあ、静流さんの言う通りだよね。アピールしなきゃ何も始まらないもん)
とにかく飛影にまず意識してもらおうと、未来は決意する。
「そろそろ時間じゃない?カズも下に来る頃だし、外へ行こうか」
「はい!」
結界の中に使い魔は入れないため、待ち合わせ場所は幻海邸の外、長い石階段の下となっていた。
「ガトーショコラと…あとこれも持って行かなきゃ」
「それは?」
未来が手にしたもう一つの紙袋に、静流が視線を向ける。
「皿屋敷で美味しいって評判の羊羹です。招待してくれた軀への手土産に。妖怪の口に合うか分からないですけど」
「お、えらいね!あ、そうだ未来ちゃん」
呼び止められ、振り向いた未来。
「恋愛はタイミングだからね」
静流が告げた一言は、まるでこれから起きることを予期していたかのようだった。