long dreamB
□Xデーは14日
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一月末、人間界・幻海邸の庭にて。
「じゃあ、今から皆を居間へ転送してみせるね!任せて、私は自分でやってみて成功してるから!」
期待と自信に満ち溢れ、はつらつとして語る少女とは対照的に、集められた五人の表情は暗い。
「本当に大丈夫なんか…?」
「オイラまだ死にたくないよ」
「あのバカ女は信用できん」
「死ぬ前に酒を浴びるほど飲みたかったぜ…」
「酎!まだ諦めるな!」
未来の“実験”なるものに付き合わされるべく招集された五人は、小声で不安を口々に述べる。
「どうしたの?」
「いいや何でもない!!」
小首をかしげた未来に尋ねられ、とっさに誤魔化す凍矢である。
帰還して以来、闇撫の能力を極めるべく修行を重ねてきた未来。
今日は特訓の成果のお披露目会も兼ねて、生命体の庭から居間への転送を試みようとしているところだ。
この安全性の保障されない実験の被験者に、不運にも幻海邸に居候中の五人が選ばれたわけである。
「おい鈴木。未来の師匠ならお前が実験台になればいいだろう」
未来の隣で彼女と同じく意気揚々としていた鈴木を、死々若丸が指差した。
「最初はそうするつもりだった。だが、万一何か起きた時に対処ができるよう、オレは残っていた方が良いと未来と話し合って決めたんだ」
「何かって何だよ何かって!」
鈴木の発言に不安をあおられ、一層顔を青くする鈴駒ら五人。
「でもね、せっかく五人集まってくれたんだけど、私まだ一人分が通れるくらいの穴しか開けられなくて。だから、協力してくれるのは一人だけでいいんだ」
「すまない、皆がこの歴史的瞬間の体験者になりたいだろうに…。だが、現段階で何度も能力を使うのは未来の体力が持たんと考えてオレが止めたんだ」
非常に申し訳なさそうに述べた未来と鈴木に反して、皆の顔は希望に輝く。
「おい、犠牲は一人だけでいいらしいぞ」
「ここは公平にジャンケンで決めるべ」
「やめろ!オレがジャンケン弱いの知ってるだろ!」
「しかしそれが一番手っ取り早い方法で…」
「も〜〜情けない!!!」
醜い会話に、しびれを切らしたのは鈴駒だった。
「へっぴり腰で怖がっちゃって、恥ずかしくないわけ?男として情けないったらありゃしないね!オイラがやってやるよ!」
先ほどと態度を一変させ、男気をみせた鈴駒に他の者はしばし呆気にとられる。
「……無理をするな鈴駒。お前の技量と器ではこの役は務まらん。オレがやる」
鈴駒の発言に、男としてのプライドをくすぐられたのは死々若丸だけではなかった。
「オレがやるっちゃ!鈴駒一人だけにカッコつけさせるわけにはいかないべ」
「待て、オレがやろう。鈴駒にそこまで言われては魔忍としての名が廃るからな」
「貴様ら、早い者勝ちだぞ。オレがやると言ったろ」
「ちょっと、その理論ならオイラがやるべきじゃん!」
自分がやると声高に主張して、被験者の座をめぐり言い争う陣、凍矢、死々若丸、鈴駒。
「いいやオレがやる!お前らにはちったあ荷が重すぎるぜ」
「「「「どうぞどうぞ」」」」」
酎が名乗りをあげた途端、頑なだった態度を一転し譲る四人。
「オイ!」
勢いよくズッコケた酎は、頭を地面にのめり込ませ逆さまになっている。
まるで打ち合わせしていたかのように、息の合ったダチョウ倶楽部コントを繰り広げる鈴駒たちなのであった。