long dreamB
□彼のやり方
3ページ/7ページ
「正気か?こんなのを師匠にするとは」
「未来、明らかな人選ミスだよ!」
「ううん、鈴木ほど私の師匠にピッタリな人はいないよ。だって死出の羽衣を作った人だもん」
死々若丸と鈴駒が失礼極まりない発言を連発すると、未来は首を横に振り主張する。
「鈴木、お願い!」
「師匠…なんて美しい響きだ…。オレが誰かの師匠になる日がくるなんて…」
未来に深く頭を下げられ、ジーンと感激している鈴木。
苦い思い出である戸愚呂との戦い。
屈辱の暗黒武術会。
幻海邸での特訓。
今までの日々が、走馬燈のように鈴木の頭の中を駆け巡る。
「おーい鈴木、見えてるかー?」
「早く未来に返事してやるっちゃ」
「ハッ」
酎と陣に顔の前で手を振られ、感傷に浸っていた鈴木が我に返る。
「未来、光栄だ。オレを師匠に選んでくれるなんて恐れ多いぞ。オレでよければぜひ力になってやりたい」
「ありがとう!すごく助かるよ!」
未来はぴょんぴょん飛び跳ねんばかりに喜ぶが、鈴木は少し浮かない顔をしている。
「だが、自信はない…。オレにもさすがに未来がいた世界とこの世界の行き来を可能にする道具は作れん。死出の羽衣で未来がトリップできたのは、使用者が闇撫の未来だったからこそだ」
「もしダメでも、それは私の力不足が原因だし鈴木が責任を感じることないよ。修行の邪魔にならないように、短時間だけでもいいから力を貸してほしいの」
「わ、わかった…!出来る限り頑張るからな!」
こんなに誰かから必要とされ、頼られたのは鈴木の人生で初めてだった。感激のメーターが振り切れた鈴木は、熱く宣言する。
「ねー、せっかく未来が帰ってきたんだからさ、皆でクリスマスパーティーしようよ!」
鈴駒の提案に、皆が口々にいいねと同意する。
「でも晩飯といったらクソ不味い草しかないぜ?」
「今晩だけは特別に薬草はナシにしますか」
蔵馬の恩情に、やっとまともな飯にありつけると歓喜に沸く陣や鈴駒たち。
酎に至っては、酒が解禁できると喜びの涙まで流す始末である。
「結界外へ出られない六人と未来以外はそこのスーパーに行ってきな」
「了解さね!ついでに桑ちゃんたちも呼んでこようかね」
幻海が財布を預け、玄関を出てスーパーへ向かうぼたん、コエンマ、蔵馬、雪菜、ジョルジュたち。
「あんたらは居間で机のセッティングでもしときな」
パーティーの準備を命じられた六人もその場を去り、玄関前の廊下には幻海と未来だけが残された。
「師範、ただいま」
一番未来がこの言葉を告げたかったのは、一番お世話になって一番長い時間を過ごした幻海師範だったのかもしれない。
「おかえり。思ったより遅かったじゃないか」
「師範、私が戻ってくるって分かってたんですか?」
「なんだかこうなるような予感がしてたよ」
いつ帰ってきてもいいように、未来が置いていった服や日用品を幻海は捨てずに残しておいたと言う。
「それで?戻ってきたからには、それなりの理由があるんだろうね」
ニヤリと口角を上げた幻海。どうやらこの聡明な年長者には、全てお見通しのようだ。
「師範。半年前に私が納得して、自分の意思で帰る決断ができたのは師範のおかげです。師範の言葉がなかったら、うじうじした気持ちのまま特防隊に流されて帰ってた…」
半年前、迷い悩む未来の背中を押し、一番大切なものに気づくきっかけとなったのは幻海との会話だった。
「そして、一度元の世界に帰ったことで大切な気持ちに気づけた。行くなって私を引き留めた飛影の顔が頭から離れなくて…忘れられなかった」
五人で撮った写真に映る、彼の姿を見ているとギュッと掴まれた胸。
もう死出の羽衣でもトリップできないと思われた時に、見て見ぬふりをしてきたその気持ちが爆発して、認めざるをえなくなった。
飛影に会いたいって。
飛影が大好きだって。
「私、飛影が好きです」
未来の口から出た名に、幻海は目を見開いた後…そうかい、と柔らかく微笑んだ。
未来も幻海も、気づいていなかった。
玄関扉の外側で、彼らの会話を聞いていた一人の人物がいたことに。