long dreamA
□雪に願いを
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暖房のきいたファミレスにて、未来と天沼は向かい合って座り談笑している。
「未来、お待たせ」
二人の元へ、紙袋を下げて御手洗が到着した。
「ありがとう、御手洗くん!本当に助かるよ、何から何まで」
「制服に合いそうなもの適当に見繕って買ってきたよ。ごめん、さすがに上着を買うお金はなくて…」
「十分だよ!ありがとう」
靴や替えの靴下、カイロを買ってきてくれた御手洗に、未来は感謝し頭が上がらない。
「ところで、どうして靴も履かずにあそこにいたんだ?」
「今天沼くんに話してたところなんだけどね、私、半年前に霊界に追放される形で元の世界に帰ってたんだけど、ひょんなことからまたトリップしちゃって」
「気づいたら蟲寄にいたってわけか」
「うん…まあそんなとこ」
ざっくりとだが、御手洗にトリップした経緯を説明した未来。
「私、今度こそ諦めたくないんだ。またトリップできたからには、どうにかして二つの世界を行き来できる方法を探そうと思う」
「じゃあこれからもまた未来に会えるってこと?」
「うん!また一緒にゲームしよ!」
「まあ気が向いたら付き合ってやってもいいけど」
素直に喜ぶのが照れくさく、可愛くない返事をしてしまう年頃の天沼である。
「二人は塾の帰りだったんだよね。えらいね、クリスマスイブも頑張って」
御手洗は高校受験、天沼は中学受験のため同じ塾に通っており、当然クラスは別だがたまに帰りが一緒になるという。
「受験生にクリスマスなんてないよ」
「あっ…悪いね、勉強しなきゃいけないのにこんな引き留めて」
「いいんだ。ちょうど息抜きしたかったし」
「ガリ勉しなきゃ合格きついんでしょ?オレは誰かさんと違って余裕だから今日の夜ゲームして遊ぶけどね!」
「それって学校の友達とだろ?」
天沼が憎まれ口を叩くも、御手洗は全く動じず小さく笑って訊ねる。
「…そうだけど」
隠したかったことなのか、決まり悪そうに答えた天沼。
「え、なになに、クラスのお友達とクリスマス会するんだ、天沼くん!」
「クラスの奴ん家に集まってゲームするだけだよ」
身を乗り出してきた未来へ、面倒くさそうに天沼は返事する。
(へ〜、天沼くん、友達できたんだ!)
未来が喜ばしく思っていると、御手洗と目が合って、クスッとまた二人で笑ってしまう。
「なんだよ二人ともニヤニヤして」
「ふふ」
未来と御手洗にからかわれているようで、気に入らない天沼は眉間に皺を寄せている。
「迷惑かけといてなんだけど、今日二人に会えて元気な姿が見れてよかった!」
「ボクもだ。また未来に会って、もう一度ちゃんとお礼したいとずっと思ってたから」
自分が変われたのは、強くなれたのは、未来や桑原との出会いがあったからこそだと御手洗は思う。
「私だって御手洗くんの言葉ですっごく救われたよ。ゲームバトラーで天沼くんが死んじゃった時、どんなに」
失言だったと気づいた未来が、言いかけてやめる。
「オレさあ」
きっと御手洗も天沼も、入魔洞窟でのあの一戦を思い出していた。
しばしの沈黙の後、唐突に天沼が口を開く。
「オレさ、やっぱり仙水さんのこと好きだよ」
ニカッと笑った天沼に、未来は意表を突かれる。
刻々と死が迫る恐怖。絶望。
自分も経験したから分かる。どれだけ怖くて苦しいか。
生き返ればそれでよしという話ではない。
小さな体に死の恐怖を味わわせた仙水に、未来は強い怒りと憤りを感じてきた。
(でも…天沼くんは私が思ってた以上に強い子だったんだな)
トラウマになっているのではという未来の心配は、杞憂に終わっていたようだ。
「今生きてるから言えることなのかもしれないけどさ、仙水さんに会えてよかった。あんな目にあったのに、不思議と嫌いになれないんだ」
変かな?と言った天沼に、未来はふるふると首を横に振る。
「仙水が天沼くんに向けた顔が全部嘘だったわけじゃないよ。一緒にゲームして、楽しかったんだよね」
騙して利用してやろうという悪意のみで、仙水は天沼と接していたのではないと未来は思う。
魔界で見た仙水の最期の姿や言葉が、未来にそう思わせたから。