long dreamA


□雪に願いを
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死出の羽衣により、めでたく二度目のトリップを果たした未来。


爆拳、吏将ときて、未来の次なる意外な再会のお相手は。


「あ、あなたまさか、ドクター神谷〜!?」


領域(テリトリー)を広げ、瞬時に傷を治すなんて芸当ができる人間は、未来が知る限り神谷しかいない。


「御名答」


驚く未来の反応が愉快で、ハッハッハと神谷は大声で笑う。


「あなた脱獄したって今ニュースで言ってたよ!その顔も自分でやったの?」


「まあな。どうする?オレを警察に突き出すか?証拠不十分で釈放が目に見えているがな」


「いいよもう…大人しくしてるなら」


自分の能力で整形した神谷に、以前の顔の面影はなく警察の信用は得られないだろう。


「脱獄のニュースの他にもね、奇跡の手道場ってやってたよ。素晴らしいお医者さんだって!あなたの能力も、今私を治してくれたみたいにさ、人のために使えばいいのに」


未来の台詞に神谷はきょとんとした後、先ほどよりもさらに豪快に笑いだした。


「ちょっとなんで笑ってんの〜!?」


「自分の頭で考えてみろ」


考えてみてもさっぱり分からないと、未来は首を捻る。


「お前こそ、なんだそのみすぼらしい格好は。追いはぎにでもあったか?」


ひとしきり笑った後、今度は神谷が未来に質問する。


「う…これは話せば長くなるというか…」


「あれ〜、未来じゃん!」


未来が言葉に詰まっていると、懐かしい元気な、ちょっと生意気な声に名前を呼ばれた。


「天沼くん!それに御手洗くんも!うわ〜久しぶり!元気だった!?」


天沼とその隣にいる御手洗の姿に、パッと未来の表情は華やぐ。


「どうして二人がここに?」
「未来こそ!」
「ボクたちは塾の帰りなんだ」


「じゃあな」


久しぶりの再会に喜びあう三人を確認すると、背を向け立ち去る神谷。


「ありがとう!傷治してくれてー!」


言いそびれていた礼を未来が大声で述べると、神谷はこちらを振り返らぬまま、片手を挙げて応えた。


(もしかして、奇跡の手道場の医師は神谷なんじゃ…)


どんどん遠くなっていく背中を見て、何故か未来の頭にそんな考えが浮かんだのだった。


「未来、あの人誰?」


「二人の元仲間だよ」


怪訝な顔をして訊ねた天沼に、いたずらっぽく笑って告げた未来。


「どうしたんだその格好。大丈夫か?」


「うん…実はかなり寒くてつらいんだ…」


御手洗が心配してるそばから、くしゅん!と未来はくしゃみをしている。


薄いペラペラな黒いマントは防寒の役目を果たすとは思えず、今の未来は見ているこっちが凍えそうになるくらい不憫な出で立ちだった。


「とりあえずあの店に入ってあったまろう」


御手洗は自分が着ていたコートを脱いで未来に被せると、近くのファミレスを指差す。


「わ、ごめん!ありがとう。御手洗くんが寒くなっちゃうのに…。でもね、私恥ずかしながら今一銭も持ってなくて」


「そんなのボクが払うから!」


未来が遠慮しようとすると、つまらないことを気にするなとばかりに少し強い口調で言った御手洗。


(御手洗くん、しっかりして男らしくなったなあ…)


コートを着せてくれたり、未来を引っ張っていってくれる御手洗に男らしさを感じ、キュンとしてしまう。


「未来、靴も履いてないじゃん!オレのちょっとの間なら貸すよ!」


「いいよ。ありがとね、天沼くん」


たぶんサイズ合わないし…と思いながら、未来は天沼の優しさに礼を言うのだった。


身体は寒くても、二人に会えて、心はもう寒くなかった。


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