long dreamA
□意外な再会
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友人と別れ帰宅した未来。
家族は全員外出中で留守だった。
「寒っ」
自室に入ると、すぐに暖房のスイッチを入れる。
(ホワイトクリスマスになったなあ)
ふと窓の外の景色が目に入り、積もる白雪を眺めて思う未来。
(クリスマスイブでも、彼氏がいなけりゃただの平日…)
女子校で出会いも恋人もいない未来には今日、甘い予定なんてない。
クリスマスっぽいメニューの夕食とケーキを家族で囲むくらいだ。
それでも。
こんな夜には、ホワイトクリスマスには自分にも何か起こるんじゃないかって期待したくなる。
たとえば、聖夜の奇跡とか。
(なーんてね)
馬鹿げた考えを抱く己を自嘲する未来だが、視線の先は棚の片隅に置かれたラタンバスケットに。
引き寄せられたように蓋を開け、中から写真立てを取り出し手に取った。
そっぽを向いた飛影の肩に手を置いて微笑む未来。
真ん中には腕を組んだ幽助、その隣に蔵馬。
最背列の桑原はワカチコポーズを決めている。
半年前に帰ってきてから、何度この写真を眺めたか分からない。
バスケットの中には、コエンマからもらった重要霊界参考人の本、飛影と海岸で拾った貝殻、メガリカのCDなどあの世界での大切な思い出がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
……ズキ。
写真に映る“彼”の姿に、ギュッと胸を掴まれ痛む。
胸の奥が苦しくなって、つらい。
こんな感覚に気づいたのはいつからか。
ふと未来はバスケットの中から、折り畳まれた白い布を手に取る。
実は、ある一つの切り札を隠し持って未来はこの世界に戻ってきていた。
未来は幽助たちのいる世界を完全に捨てて、諦めてこの世界に戻る決断をしたのではなかったのだ。
バラバラに別れた五本道が先で繋がってほしいと、本気で願ってきた。
死出の羽衣。
暗黒武術会の裏御伽戦後、医務室にて死々若丸からもらった闇アイテムであり、くるんだ相手をどこか別の場所に転送してしまう恐ろしい道具だ。
この羽衣を未来が受け取ったせいで、決勝戦に桑原不在で危うくコエンマが戸愚呂兄と戦いかけるなんてハプニングにも浦飯チームは見舞われた。
(桑ちゃんは死出の羽衣で二回とも武術会の前の闘技場に飛ばされてる。もしかしたら私も使えばそこへ行けるんじゃないかな)
全く別の知らない異世界に飛ばされてしまう可能性は十分にあり、あまりにも無謀な賭けだと他人が聞いたら青ざめ止めるだろう。
それでも、いつか本当に皆が恋しくてたまらなくなった時に使おうと未来は心に決めていた。
しかし、その“いつか”がいつなのか未来は分からない。
皆に会いたいなんて気持ちは、常に自分の中にある。
明確な目的がないのに、今の生活を放り出してまで幽助たちの世界に行くのもいかがなものか。
それに、自分が行方不明になればまた周りの人間を心配させることになる。
半年前に帰ってきた時、あんなに憔悴しきった両親の顔を未来は初めて見た。
霊界に追放されるような形だったとはいえ帰る決断をしてよかったと、未来は心底思ったものだ。
(上手く幽助たちの世界に行けても、霊界の人がエネルギー集めて私を帰すまで、また不安にさせることになっちゃうな)
確実性がないこと、家族や友人、学校のこと、明確な目的がないことを考えると、やはりいつも躊躇してしまい死出の羽衣の使用に踏み切れない未来。
今日も同じで、ひとまず洋服ラックに羽衣をかけておいた。
コートとマフラー、カーディガンも脱ぎ、ラックにかける。