long dreamA


□White Xmas
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薄く積雪した住宅街の中を、一人歩く蔵馬。


巻かれたマフラーからはみ出た耳は赤く、厳しい寒さが窺える。


“未来が帰っていてよかったな”


何度も思ったことを、また蔵馬は胸の内で繰り返す。


思うようにしたこと、という表現の方が正しいか。


もしも未来がいたら、実際先ほど空もああ言っていたことだし、家族だけでなく彼女までもが人質の標的になっていたかもしれない。


また、黄泉は未来に興味を持ち癌陀羅へ招きたいと考えていたようだ。


蔵馬は未来を三竦みの争いに巻き込みたくなかった。


未来の手を離してよかったと…
自分は未来を守ることができたと、蔵馬は充足感に浸ろうとする。


そうしていると、夏、千年ぶりの再会を果たした際の黄泉の言葉がふと頭に浮かぶ。


“闇撫のお嬢さんが帰ってしまったなんて残念だ。彼女にも見て欲しかったのに”


つまらなそうに述べ、黄泉は足を振り上げると。


“こいつの最期をな”


一分の躊躇もなく、捕らえていた妖怪の命を絶った。


千年前、蔵馬が黄泉暗殺のため送った刺客である妖怪の命を。


「メリークリスマス!」


飛び散った鮮血の赤を思い出したと同時、大声で呼びかけられて蔵馬はハッとする。


振り向くと、大きなサンタクロースの人形に子供たちが瞳をキラキラさせて集まっていた。


呼びかけられたと勘違いしたのは、どうやらサンタの人形の音声だったらしい。


「はっ…」


気づかない間に駅前の繁華街に着いていたくらい、自分は物思いに耽っていたようだ。


蔵馬は自嘲し、駅の構内に足を踏み入れホームへ向かう。


もしも黄泉の命令通り未来を癌陀羅へ連れていっていたら、と考えれば。


黄泉は未来の目の前であの妖怪を殺し、千年前の蔵馬の裏切りを彼女も知ることになっていたはずだ。


“蔵馬は優しいし、仲間思いだし、極悪非道なんてイメージと結びつかなくて。盗みとか、裏切りとかいう単語の対極にいるもん”


そう自分を評してくれた未来は、一体その時どんな反応をしただろう。


なんて永遠に答えの出ない無意味な考えに取りつかれてしまう己に呆れながら、蔵馬は電車に揺られるのだった。








蔵馬がたどり着いたのは、うっそうと茂った森に佇む幻海邸。


山々は雪で白く彩られ、より美しい景観を創造している。


「おお来たな」


「どうですあの六人は」


「なかなか筋がいい。幽助より教えがいがあるよ」


未来が居候していた時とは違い、至る所が結界で包囲された敷地の中へ、幻海は蔵馬を招き入れる。


夏、半年以内に妖力値10万以上の妖怪六人を連れてくると黄泉に約束した蔵馬。
その六人を育てている場所が、この幻海邸であった。


「コエンマもちょうど来ているよ。六人の様子を見に行く前に、せっかくだから会っていくといい」


そう告げると、コエンマのいる居間へ蔵馬を通した幻海。


「よォ」


「ご無沙汰してます」


短く挨拶を交わすコエンマと蔵馬。


幻海の計らいにより、久しぶりの対面となった二人だった。


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