long dreamA
□White Xmas
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「夏頃から南野、情緒不安定だぜ。今日みたいに悲壮感漂ってる日もあれば、なんかこう…目の奥に怪物飼ってるみたいな時もある」
バイオリズムのせいだろう、と蔵馬は思う。
武術会以来、時々“秀一”でありながら“蔵馬”になっているような錯覚に襲われることがあった。
そんな時、ひどく好戦的になる自分に気づく。
黄泉に会ってから、その症状はさらに進み“蔵馬”に戻る周期は段々と短くなっていた。
「大丈夫か?今度は浦飯くんたちと敵同士になったっていうし…」
何か協力できることはないかと、暗に海藤は問うて心配しているのだ。
「大丈夫だ。オレもわりと楽しんでやってる」
「秀兄!」
中学生くらいだろうか、まだ幼い顔つきの少年が蔵馬の元へ駆け寄ってきた。
「新しい弟か?」
「ああ」
「奇遇だね秀兄!学校帰り?」
畑中秀一は南野志保利の再婚相手の息子であり、蔵馬の義弟にあたる。
「せっかくだし兄弟で帰れよ。じゃあな、また新学期」
気を遣った海藤は、片手を上げると一人で駅の方まで向かっていった。
(時間が解決してくれるまで、まだもう少しかかりそうだな)
最愛の女性と会えなくなってしまった友人の胸中を、慮りながら。
「わざわざ学校まで来るな。イヤでも家で会うんだ」
海藤が去った後、隣の少年へ鋭い眼差しをおくる蔵馬。
それは弟に向けるものにしては、あまりにも冷たい。
「まあそう言うなよ。オレだって仕事だ」
へらへら笑う弟と連れ立ち、帰宅した家は無人だった。
クリスマスイブの今宵、両親は食事に行くらしいので遅くまで帰らないだろう。
「あーあ、にしても帰るタイミング悪すぎだよなァ。オレもどうせならコイツじゃなくて未来って女の身体に寄生したかったぜ」
ドカッとリビングのソファに腰を下ろすと、心底残念そうな口調で文句を垂れる畑中秀一。
「あんたの反応も、もっと面白くて見応えがあったかもしれねぇしな」
いかなる場面でも冷静沈着な姿勢を崩さない蔵馬を忌々しげに眺め、煙草に火をつける。
その手をパシ、とはたいて蔵馬が煙草を高速で奪い取った。
「空よ、黄泉に言われなかったか?人質は丁重に扱えとな」
「ムカツくヤローだ、口のきき方に気をつけろよ」
機嫌を損ねた空が、少年の耳穴からその細く鎌のような全身をのぞかせる。
妖怪・空は黄泉軍No.2である鯱の命令で、畑中秀一の肉体に寄生し取り憑いていた。
蔵馬が夏に参加した癌陀羅軍の会議で“半年以内に各国のNo.2が全て入れかわるだろう”と発言し、鯱の怒りを買ったことが原因だ。
「まあいーや。今回は寛大なオレ様に免じて許してやるよ。テレビでも見よーっと」
底の知れない蔵馬に歯向かうのは正直恐しく、英断でないとは分かっていた空が、テレビのリモコンを操作し電源を入れる。
そんな空を見届けると踵を返し、コートを羽織ると再度玄関へ向かった蔵馬。
「出掛けるのかよ」
「母さんたちが帰るまでには戻る」
なんだかんだ人間界での暮らしを満喫している様子の空は、テレビ番組に熱中していったのだった。