long dreamA
□White Xmas
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学期末試験の順位が張り出された掲示板に、盟王高校の生徒たちは群がる。
「また南野、海藤に負けてるよ」
「うわ〜、また南野二位!?」
「おい、聞こえるぞ!」
ちょうど通りかかった赤い長髪の彼の姿を目にとめ、男子生徒が友人を小突く。
南野秀一。
端正な顔立ちと学年トップに君臨する成績で目立つ彼だが、特定の仲の良い友人はおらず“何を考えてるか分からない”という印象を周囲に与えがちだ。
噂の張本人が通り過ぎるのを、不自然に静かになりながら生徒たちは見送った。
「…南野くん、夏頃から調子悪いよね」
その背中が見えなくなった後、女子生徒がぽつりと呟く。
「やっぱあの噂、ホントなのかな。彼女と別れたってやつ」
「えー!何だよその噂!」
噂など初耳の男子生徒が身を乗り出す。
「知らないの?けっこう有名だよ。南野くん、何度か彼女らしき子とデートしてるとこ目撃されてるんだよ」
「誰とだよ?この学校の奴?」
「ううん。たぶん他校の子じゃないかな。可愛い子だったって」
「へー、さすが南野。やるなァ」
「でもね、夏前から目撃情報がぱったりなくなって、ちょうどその頃から成績も落ちてるの」
「なんか元気ない気もするしな。まあ前から元気いっぱいってキャラじゃないけど」
「やっぱり彼女さんが原因なのかな…」
そんな会話を交わす二人の横を、今期成績トップ・海藤優が小走りで通り過ぎていった。
「南野!」
校門前で蔵馬に追いついた海藤が呼びかければ、くるりと振り返る彼。
「ちょっとお前の答案見せてみろ」
大人しく指示に従い蔵馬が取り出した答案を、しげしげと海藤は眺める。
「ふ〜ん。計算途中の掛け算で間違ってるとこなんかお前らしいけど」
「どうも」
蔵馬は口元に綺麗な弧を描いて笑うと、海藤から渡した答案を受け取った。
「明日から冬休みだな。どこか遠出でもするのか?」
「家族でゆっくり過ごす予定だよ」
「そうか。てっきりまた魔界に行くのかと思ってた」
「もしかしたら行くかもしれないが」
さくり。さくり。
白く積もった降雪を踏みしめる、二人分の足音が冬の乾いた空気に映える。
「にしても、雪が降るとはな。そのうち電車止まるんじゃないか?」
「ホワイトクリスマスだって、クラスの皆が喜んでたね」
「クリスマスイブを終業式にするなんて空気が読めない学校だって文句も言ってたよな」
今日は12月24日。
すなわちクリスマスイブだ。
吐く息の白さも。
凍てつくような寒さも。
降り積もる雪も。
全てが聖夜を彩る装飾となって、街はどこか浮足立っている。
「クリスマスイブかー…はやいな」
時の流れの速さをしみじみと実感する海藤。
いつからを基準にして海藤が“はやい”と言っているのか察しつつ、無言で蔵馬は隣を歩く。
「永瀬さんがいなくなってから、もう半年か」
そう。
未来が元の世界へ帰ってから、すでに半年の時が経過していた。