long dreamA
□告げる者、秘める者
2ページ/6ページ
時間を少し巻き戻す。
それは、一昨日の夜のこと。
「行くな」
真っ直ぐ目の前の未来を見つめた。
未来の揺れる瞳に映るのも彼女を見つめる己の姿だけで、飛影は小さな充足感を得る。
「霊界に追われているなら、オレが魔界に連れてってやる」
霊界なんぞのせいで未来を失いたくなかった。
危険であろう躯のところへ未来を連れて行くのは些か気が進まないが、こうなれば仕方ない。
彼女は自分が守り抜けばいいのだ。
躯のそばでは戦闘に不自由しない。
もっと強くなれるはずだ。
未来を守るために。
諸々の思いを込めるように、ぎゅっと彼女の右手首を掴む力を強める。
未来はしばらく呆然として何も答えない。
けれど。
「……えっと……」
続きを聞かなくても、その表情で飛影は分かってしまった。
未来が困っていることに。
急速に身体が冷えていく。
掴んだ手首から未来の体温も感じなくなったのは、無意識に掴む力を弱めていたからか。
「飛影〜〜!未来が帰るって聞いて寂しくなっちまったか!?」
白々しいほど明るく馬鹿でかい声の幽助に肩を組まれる。
その衝撃で、気づけばぷらん、と未来の手首を握っていた腕を不格好に下ろしていた。
「気持ちはわかるけどねェ、未来には元の世界に家族がいるから…。あたしだってホントは未来を引き留めたいよーーっ!」
幽助に便乗し、霊界案内人の女がふざけ半分に未来に抱きつく。
どんな馬鹿でも分かるだろう。
幽助もぼたんも、気まずくならないようわざと明るく振る舞っていると。
実際場は和み、また賑やかさを徐々に取り戻していく。
「未来ちゃんともっとお酒飲みたかったよ」
「未来さんとこれからもっと仲良くなろうと思ってたところだったのに」
「ジョルジュ、涙をのんで未来さんを見送りますっ」
「永瀬さんには世話になった分、寂しいよ」
口々に皆が未来への思いを述べ別れを惜しんでいた。
「…あ……私も寂しいけど、でも帰らなきゃいけなくて…」
その台詞はその場にいた全員に向けられたものか。それとも。
考える間もなく、下がり眉毛になった未来と目が合う。
未来は言葉が見つからないらしく、視線を逸らし俯いた。
「おい幽助、お前も言わねばならんことがあるだろう?」
「あー!そうだった!オレ魔界行くことにしたんだ」
コエンマに小突かれた幽助が新たな爆弾を投下し、さらなる喧騒に包まれる。
幽助が説明し終わると、打ち上げはお開きとなり解散して。
それ以降、飛影は未来と顔を合わせていない。
未来が目覚める前に外出し、未来が眠った後に戻る。
幻海邸から足が遠のき、彼女を避けてしまっていた。