long dreamA
□告げる者、秘める者
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盟王高校の屋上へ続く階段裏にて、蔵馬はポケットから球体を取り出し壁に投げつける。
昨日の未来とのデートの帰りに受け取った、魔界の三大妖怪の一人・黄泉からの言霊だった。
壁にじわじわと見覚えのあるシルエットが浮かび上がってくる。
『久しぶりだな蔵馬。生きていて嬉しいよ』
大妖怪へと成長していた元盗賊仲間を千年ぶりに前にし、蔵馬に緊張が走る。
『今度はオレを助けてくれ』
簡単に言えば、黄泉の要求は雷禅と躯を凌駕し魔界を掌握するため力を貸してほしいとのことだった。
『そうそう、お前が魔界に来た時と同時に興味深い妖気を感じた。異世界から来たという、闇撫のお嬢さんだろう?』
未来の話を黄泉が持ち出した途端、蔵馬の顔色が曇る。
『ぜひ会いたいよ。彼女も連れて一緒にオレの元へ来てほしい』
「残念ながらそれは無理な頼みだな」
黄泉には聞こえないと知りつつも返事をした蔵馬。
黄泉に未来を会わせるなんてもっての外だ。
何を企んでいるのか分からない。危険すぎる。
大体、今日未来は元いた世界へ帰るので不可能な話だった。
『追伸…オレから光を奪った妖怪は百年ほど前に見つけ出すことができたよ』
蔵馬が知っている黄泉と、今の黄泉で変わったところがいくつかあった。
その一つは、彼が視力を失い盲目となっていた点だ。
『お前にも会わせたくて殺さずに飼ってある。ぜひ見てほしい笑ってしまうから』
そう言い残し、壁に浮かんだ黄泉の姿はすうっと消えていった。
「古い知り合いか」
「!…ああ」
いつの間にか階段上の踊り場に立っていた飛影に話しかけられ、少し遅れた反応のあと蔵馬は返事をする。
「フフン驚いたか。お前らしくもなく周りが見えないほど熱中していたな」
案外普通だな、というのが蔵馬が感じた飛影に対する印象だった。
飛影は気に病んでいるようでも、憂いているようでもない。至極いつも通りだ。
「オレの方にも言霊を届けに使い魔が来たぜ。こっちは躯の手下だったがな」
雷禅は幽助に。
黄泉は蔵馬に。
躯は飛影に。
敵対する魔界の三大妖怪が、それぞれスカウトの声をかけていたのだ。
「オレは躯に会いに行く。安心しろ躯につく気はない。だが躯のところに行けば戦闘には不自由しないからな。せいぜい利用させてもらうぜ」
躯を利用する。
そう言い切った飛影を、無表情のまま蔵馬は眺める。
(生まれてなかったから知らないんだよ飛影。躯の恐ろしさを)
千年生きた妖狐には、齢十半ばの少年の若さと無知がひどく危うく見えた。
「躯は未来について何か言っていたか?」
「…いや。言ってなかったぜ」
何故そんなことを訊ねると言いたげな目つきをして飛影が答える。
どうやら黄泉とは違い、躯は未来に興味を持ってはいないようだ。
躯が求めるのは、あくまでも飛影だけ。
「それと、未来の見送りのことですが…」
「…!」
蔵馬の言葉を契機に、飛影の脳裏に一昨日の記憶がフラッシュバックした。