long dreamA


□日の出
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「オレが生まれるずっと前、たぐいまれなる才能を持った闇撫がいた。古い昔話さ。そんな彼女が一年ほど行方不明となり、ある日ひょっこり帰ってきた。今までどこで何をしていたのかと問えば、彼女は人間界も飛び越えて、全く別の異世界に行ってきたのだと一族に語った」


全く別の異世界とは、すなわち未来が元いた世界を指すのだろう。


「そんなことをした妖怪は、魔界中探したって今までいなかった。一族は彼女の才能に驚き喜びお祭り騒ぎだ。他の妖怪にこの偉業を吹聴して回ったが、誰も信じる者はおらず嘘つき呼ばわりされた。糾弾された彼女は心労で倒れ亡くなってしまったという」


「その話…聞いたことがある。作り物のおとぎ話だとばかり思っていたが」


「魔界に長く生きた者なら一度は聞いたことがある話だろう。自己の能力を誇大し嘘をついたら痛い目をみるという教訓としてね」


遠い記憶を呼び覚ました蔵馬に樹が頷く。


「ここまでが一般に伝承されている昔話だが、この話には闇撫一族のみに言い伝えられている続きがあるんだ。彼女は死の淵で、ある予言を残した」


樹はそこで一呼吸おいた。


「別世界の人間の男との間に子供を産んできた。魔族大隔世は女に表れるよう遺伝子に細工しておいた。何世代も後に私の娘が必ず現れるはずだ。その時に、私の話が嘘ではないと証明されるだろう、と」


「それが私…?」


やっと全ての謎は解けた。だから樹は未来が女性であると事前に知っていたのである。


「ああ。異世界から人間が来ると予感した時は、歴史的な瞬間に立ち会えると喜んだよ。あの昔話は本当だったのだと歓喜に沸き、すぐに仙水に報告した」


当時を思い返し、嬉しさあふれた表情で熱く語る樹。


まるで少年のような顔をした樹が意外で、未来は目を丸くする。彼にそうさせたのは自分だという事実がくすぐったい。


「闇撫の娘が訪れると教えると、ナルが取り乱してしまったのは想定外だったがな。誤算といえば、次元を切り裂く能力に目覚めたのが闇撫の未来ではなく桑原だったこともだ」


「君を殺したのは二つ理由があったんだ」


樹に続いておもむろに口を開いたのは仙水だ。


「一つは君に宿ったオレの魂の一部を消すこと。オレの身体は悪性腫瘍に侵食されている。君が生きたままだったらオレは死ねない。屍のような状態で生きるなんて真っ平だ」


気を失うような激痛の中、蝕まれ機能しなくなった身体。
仙水はそんな状態で生きることに価値を見出せなかった。


「二つ目は、君を闇撫として完全に覚醒させること。聖光気を操ってきた君なら、覚醒に耐えられるだけの器を手に入れただろうとオレは考えた」


つまり、仙水は未来が生き返ると分かっていて彼女を殺し、覚醒の手助けをしたのである。


「…私、あなたたちの手の上で踊らされていたみたいだね…」


全てが彼らの計算のうちにあった。
自分は振り回されていたのだ。


(じゃあ、私の死の覚悟って何だったんだろう…。最初から教えてくれてたらあんな恐怖を味わうことはなかったのに)


文句はたくさん思いつく。
しかし、不思議と未来は二人を責める気持ちにはならなかった。


自分も天沼も幽助も、今生きているのだから、それ以上望むものは何もないと思った。


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