long dreamA
□守りたい
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顔を伏せて、現実から目を逸らすようにギュッと瞳を閉じた未来は、闇の中で一人震える。
死ぬべきだとは分かっている。
自分が生きている限り、仙水は倒せない。
人間界を救うためには自分の犠牲が必要だ。
でも死ぬのは怖い。嫌だ。
洞窟に入る時に相応の覚悟はしたつもりだったが、このザマだ。情けない。覚悟なんて全然できていなかった。
(天沼くんもこんな気持ちだったのかな…)
小さな体でこの大きな恐怖と絶望の中、死んでいったのかと思うと未来の胸は心臓を鷲掴みにされたかのように痛む。
幽助が力尽きた時、自分は仙水に殺される。
それは数分以内に訪れるだろう。
悔しい。
闘えないことが悔しい。
殺されるしかないことが悔しい。
(結局私は、最後まで皆に守られてばかりで何も返せなかったな…)
本当に自分は弱い。
身も心もひどく弱い。
暗黒武術会では優勝商品となった自分を守ってくれて、未来は皆に恩返しをしたいと思っていたのに結局できなかった。
(この世界に来てからビックリすることばっかり)
妖怪や化け物の存在に、超人的な幽助たちの強さ。
きわめつけに、16歳という若さで自分が命を落とすことになるとは。
全然、そんな勇気はないけれど。
納得できていないけれど。
人間界のために死ぬ覚悟なんてない。
(今まで楽しかったなあ)
トリップさえしなければ今日死ぬことにはならなかったのに、とは未来は思わなかった。
だって、こんなに素敵な出会いがあった。
かけがえのない仲間ができた。
皆との思い出が、走馬燈のように未来の頭を駆け巡る。
(…‥そっか)
そこで、未来は自分の思い違いに気づいた。
(人間界のためじゃないんだ)
不思議だ。この世の終わりのように塞ぎ切った心だったのに、次第に身体に力が湧きあがってくる。勇気がこみ上げてくる。
(お母さん‥お父さん‥ごめんなさい)
両親や大切な人たちの顔が浮かんで、涙腺が緩む。
きっと家族は、今のこの状況を知ったら逃げろと言うだろう。
人間界なんかどうでもいい。お願いだから逃げて私たちのところへ早く帰ってきてと。
もしかしたら、今すぐ逃げて洞窟の外にいるであろうぼたんに頼み霊界に行けば、それも可能なのかもしれない。
(でも、でもね…)
覚悟を決め、目尻に光る涙を拭う未来。
ピンと真っ直ぐ背筋をはり、決意を胸に大きく一度深呼吸した。