long dreamA
□勝てない理由
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外界で決戦の火蓋が切られた一方、裏男体内では。
「オレにやらせろ、気がおさまらねー」
「はやるな。お前たちとやる気はない」
勇猛果敢に挑みかからんとする桑原を、落ち着いた声で樹が制する。
「立場は違えどお互い一人の男に魅かれ行動を共にした。違うかね」
「けっ。できれば教えてもらいたいもんだな。あの仙水のどこが気に入ったってんだよ」
吐き捨てるように言った桑原に、全てさ、と樹が答える。
「彼の強さも弱さも純粋さ醜さ哀しさ全て。あいつの人間臭さ全てに魅かれていった」
樹は仙水と初対面した時の出来事を語る。
自分は唯一仙水に殺されなかった妖怪なのだと。
それは、とどめを刺される間際、樹がほんの少し人間臭さを口にしたからだった。
「天地がひっくり返るほどの衝撃を受け、妖怪にもいろんな奴がいるんだなと言った仙水の顔は年齢以上に幼く見えた。時限爆弾と恋人をいっぺんに手に入れたような気分だったよ」
「オイオイ段々話が妖しくなってきやがったぞ」
顎に手を当て恍惚とした表情で述べた樹に、苦虫を噛み潰したような顔をする桑原。
「お前なら止めることができたはずだ。仙水がこうなる前に」
「わかってないな。オレは彼が傷つき汚れ堕ちていく様子をただ見ていたかった」
蔵馬の発言に首を横に振り、樹は仙水への歪んだ愛情を語った。
「キャベツ畑やコウノトリを信じている可愛い女のコに無修正のポルノをつきつける時を想像するような下卑た快感さ」
突然アダルティーな方向にシフトしていった樹の話に、未来はギョッとする。
「ちょ…やめてください!飛影がいるのに!」
「おいそれはどういう意味だ」
ガキ扱いされた飛影が思いっきり顔をしかめる。
「その点人間の醜い部分を見続けた仙水の反応は実に理想的だったな。割り切ることも見ぬふりもできずにただ傷つき絶望していった。そしてその度強くなった」
未来の咎める声も無視し、樹は快感にうち震えていた。
「吐き気がしてきたぜサイコ野郎め。諸悪の根源はテメーみたいな気がしてきた」
桑原の言葉が全員の総意であり、皆が到底理解できない樹の思考にドン引きしていた。
「誤解は困る。オレが仙水を仕向けたわけじゃない。オレはただの影。変わっていく彼を見守り彼の望むままに手を貸しただけだ」
「できるならこの場でお前を殺してやりたいよ」
「賢明な君ならそれができないことも分かっているだろう。オレを殺せば永遠に裏男の腹から出られない」
慧眼を持つ蔵馬に目を細め、樹が微笑をたたえる。
未来たちは、おとなしく幽助と仙水の闘いを見守るしかないのだ。