long dreamA
□狙撃手-sniper-
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「バイバイ」
死にゆく敵に別れを告げて、躊躇なくひかれた引き金。
刃霧の放った弾は石油タンクに命中し、大きな爆発音と共に一帯の森はむせ返るような煙と炎に包まれる。
しかし、勝利を確信していた刃霧の背中を何者かが剣で貫いた。
ぼんやりとした視界に幽助は倒れていく刃霧の姿をとらえる。
「飛影か…?」
首根っこを掴み自分を爆発から救い出してくれたのは、少し懐かしい対面となった彼だった。
「死ぬのは少し早いぜ。面白いものが見られるのはこれからだ。見ろ。もうすぐ地獄のフタが開く」
麓を見渡せば、ちょうど入魔洞窟の上空を凶来雲が覆う不吉な光景が広がっていた。
「サンキュー飛影。ったく、えらくやりづらい連中だったぜ」
苛立ちと悔しさから、幽助が地面に拳を叩きつける。
「四の五の言ってる場合じゃねえ急がねえと」
「急ぐ?何を急ぐんだ?」
「決まってんだろ、未来と桑原を取り戻す!んで奴らをぶっ倒す!飛影がいない間に二人が奴らに誘拐されちまったんだよ!」
飛び出そうとした幽助の首元に、飛影の剣が鋭く光る。
「そんなザマで奴らを倒せるか?これでお前は今日二回死んでいる」
「なんだとコラ」
自分を挑発する飛影の言動に、ふつふつと怒りが沸く幽助。
「本当に殺すか」
睨みつけてくる幽助を、冷たく殺意のこもった視線で見据え、飛影が妖力を放出する。
「くたばれ」
「飛影てめェ!」
負けじと幽助が霊力を放出し、二人の拳がぶつかり合う。
本気と本気、強烈なパンチの応酬。
激しい肉弾音が十分間ほど辺りに響いた後、二人はどちらともなく距離をとり、互いに息を整える。
「ふっ…くくく…」
突然低く笑い始めた飛影に、幽助は疑問符を浮かべる。
「安心したぜ。霊力そのものが弱ってるわけじゃなさそうだ」
ペロッと飛影が腕から流れる血を舐めとって、幽助も気づく。
「あー!てめぇオレを試しやがったな!」
「久々に全力で暴れた気分はどうだ?さっきまでのお前は欲求不満がツラ中に広がってたぜ」
なじる幽助の言葉は無視し、続ける飛影。
「連中はお前の力を抑え自分たちの能力を最大限に生かす戦法をとってきている。湯が沸いたような脳ミソで何度戦っても同じようにはめられるぞ」
先走りがちな自分に、頭を冷やして戦えと飛影は言っているのだと幽助は悟る。
今回の事件を通して幻海に何度も幽助が言われてきたことだった。未来にも似たようなことを一度だけ言われたことがある。
「何がおかしい」
「まさかオメーにそんなこと言われると思ってねーもんよ、けけけけ」
意外な彼からの助言に幽助はひとしきり笑うと、晴れやかな顔で告げる。
「飛影、サンキュな。かなりスッキリしたぜ」
飛影らしく、そして一番自分に有効なやり方だったと幽助は思う。
(飛影…ありがとな)
もう一度、胸の中で繰り返した。
「…よし!とにかく未来と桑原を取り戻さねーとな。一旦蔵馬と合流するか」
「未来なら無事だ。今は蔵馬に預けてきている」
思わぬ飛影の返答に、幽助は目を見開いた。