long dreamA


□奪い合い
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男の赤子…忌み子…
忌み子じゃ…!



氷女たちのひっそりとした騒ぎ声がひっきりなしに耳元で聞こえる。


注がれるのは恐れと軽蔑の眼差し。
目を合わせニヤリと笑ってやると氷女たちは面白いくらい怯えた表情をする。



女児は同朋じゃ
しかし男児は忌み子
必ず災いをもたらし氷河を蝕む



冷たい冷たい氷河の風。
炎の妖気を纏っていたのに、凍てつく吹雪の感触を、今も忘れないのは何故なのか。



落ちていく。
氷河の国が遠くなっていく。


腹の底から嬉しくて自然と笑みがこぼれる。
生まれてすぐ目的ができた。



ああ…またこの夢か…








…飛影!




名付け親はもう顔も忘れた盗賊。


何の思い入れもないはずの名に、呼ばれるたび心地よさを感じたのはいつからか。




“飛影が初めて私の名前呼んでくれたのが嬉しいの”



今ならその気持ちも分かるかもしれない。




…飛影!飛影…



ずっと呼んでいればいい。
彼女が口にするのは自分の名だけでいいから。
もっとその声で呼んでほしい。



ずっと、このまま…







「飛影!飛影ったら!朝だよ!」



パチ、と目を開けば、視界いっぱいにこちらを覗き込む未来の顔が映る。


「何回も呼んだのに飛影ったら全然起きないんだから」


クスッと笑った未来は既に着替えていて、朝の身支度を済ませているようだ。


「わあ、美味そう!」


ダイニングテーブルに並ぶ皿に、天沼が歓声を上げている。


「簡単なものしか作ってないけどね」


天沼がお腹が空いたとぼやいていたので、冷蔵庫の中を物色し朝食を作った未来である。


「……」


身じろぎした飛影は、自分を包む毛布の存在に気づく。


おそらく昨夜、未来がかけていてくれたのだろう。


「飛影も食べようよ」


彼女と出会って、変わったことはいくつもある。


自分の名前が好きになった。
こういった何気ないやり取りが、随分と居心地のいいものだと知った。

きっと相手が彼女だからだ。


「ああ」


短く返事をして、飛影はむくりと起きあがった。


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