long dreamA


□飛影と蔵馬
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「極度に疲労している人間にソレを嗅がせても意味はない。その子には効かないと、お前が一番分かっているだろう、蔵馬」


「…っ…」


幻海の言葉に、蔵馬が力なく植物を持っていた腕を下ろす。


(いつにないほど蔵馬が冷静じゃねえ…)


無駄と分かっている行為を続けるなんて、いつもの蔵馬なら考えられない。


未来の危機に初めて見せた蔵馬の一面に、幽助が目を見張る。


「…桑原くん。未来が攫われた時のことを詳しく教えてくれ」


流れる長髪を垂らし、しゃがんだまま静かに蔵馬が問うた。


「未来ちゃんは刃霧って奴にバイクに乗せられ連れてかれた。奴らが未来ちゃんを攫った理由はわからねえ。協力してもらう、とか言ってたな…。すまねえ、止めることが出来なかった」


不甲斐ない自分と、敵への怒りに桑原は握った拳でダンッと床を叩く。


「ワリイ、オレが持ってる情報もこれだけだ。早く…未来ちゃん助けに行かねえ…と…」


「力尽きたね。寝かせといてやろう」


再び意識を失った桑原を見、幻海が淡々と述べる。


「早く未来助けに行かねえと!」


「待ちな!」


居ても立っても居られず、走り出した幽助を呼び止めた幻海。


「すぐ飛び出すのはあんたの悪い癖だ。これが罠だったらどうする、敵の思う壺だ。御手洗が起きるのを待ってからで遅くないだろう」


未来と最後に交わした会話で、彼女にも幻海と同じことを指摘されたと幽助は思い出す。


(あんなくだらねえ言い争いを最期にしてたまるかよ…!)


喧嘩別れなんて御免だ、と幽助は唇を噛んで悔しさに耐える。


「奴らは未来に協力させるため連れて行ったようじゃないか。大丈夫、殺しやしないだろう。拷問されようが何されようが生きてりゃ問題ない」


拷問、という幻海の言葉に蔵馬の拳がギュッと強く握られる。


幽助は胸倉を掴む勢いで幻海に食ってかかった。


「生きてりゃ問題ないって…じゃあ婆さんは未来がどんな目にあってても構わないって言うのかよ!」


「そうは言ってないだろう。大体、あんたは未来がどこに連れていかれたのか当てはあるのかい?」


「入魔洞窟。そこで奴らは穴を開けているらしい」


「確証は」


強い口調で幻海に詰問され、ぐ、と幽助は押し黙る。


「今は情報収集と敵の狙いを探ること、計画を練ることに専念すべきだよ。軽率に敵の本拠地に乗り込めば、未来もあんたも皆死ぬことになるよ」


「…そうですね」


すくっと蔵馬が立ち上がった。


「蔵馬…」


真っ直ぐ前を見据える彼に、妖狐の影を感じ取った幽助。


冷たい光を放つ蔵馬の瞳は、静かな怒りに燃えていて、睨まれれば背筋が凍ってしまうだろうと思う。


「オレが思うに、未来は異世界から来た人間だから敵に目を付けられたんだろう。敵の目的は異世界へ繋がる穴を開けること。未来に何らかの能力を求めて攫ってもおかしくない」


「じゃあ、穴を開けるっつう目的を達成するまで奴らは未来を殺さねえか…」


「そう願うしかないね」


幽助に頷いた蔵馬の顔と声には感情がない。


蔵馬はまた先ほどの植物を取り出し、それを桐島、大久保、沢村の鼻先に近づけた。


「彼らに聞いてみましょう。今第一にすべきは情報収集だ。オレたちには情報が少なすぎる」


蔵馬のその台詞は、まるで自分に言い聞かせているようだった。


本当の望みや感情を蔵馬が押し殺しているような…そんな気が幽助はした。


自分の気持ちに率直に従い行動する己や桑原、飛影とは蔵馬が決定的に違うのがこういう所だ。


(蔵馬…今すぐ未来を助けに行きたいって顔してるぜ)


蔵馬の無表情の裏の思いを、彼の仲間である幽助は読み取る。


正論は、時に残酷だ。何が最善で正しいか誰よりも理解している蔵馬だからこそ、感情のままに行動することを選べないのは辛いだろう。


幽助はそんな蔵馬がじれったかったし、大事な仲間である彼のため何も出来ない自分がもどかしかった。


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