long dreamA


□恋模様
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誰あの子?と部外者である周囲の視線にもめげず、未来がやってきたのは2年C組の教室。


(蔵馬は…。あれ、いないや。もう帰っちゃったのかな)


ひょこっとドアから顔を覗かせるが、教室に蔵馬の姿はない。


「あの、南野くんがどこにいるか分かりますか?」


教室から出ようとした蔵馬のクラスメイトであろう男子生徒に、意を決して未来は話しかけた。


「南野…。生物部の部室かな?三階の端にありますよ」


「わかりました!ありがとうございます!」


ぺこりと頭を下げ、超特急で未来は校舎内を駆けた。





「なあ南野ー。部長やってくれよ」


三階、生物室。
部員数が少ないのか、教室は閑散としている。


「オレまだ2年ですよ。それに責任感ないですし」


「いや!オレたち3年じゃダメなんだ!我が弱体生物部を救うのはお前しかいない!」


さらりと蔵馬は断るが、それでもなお熱く語る現部長。


「次の生徒議会で予算を勝ちとれそうなのはお前しかいないんだよ!」


現部長が固く拳を握り必死に説得を試みる中、ドタドタと廊下を走る音が響いたかと思うと。


「蔵馬ー!!」


ガラッとドアが開き、未来が室内に飛びこんできた。


「未来!?」


思いがけない未来の登場に、蔵馬の声は裏返る。


「蔵馬!大変なの!これ見てこれ!」


焦る未来が蔵馬に紙を手渡す。


「南野、その子誰?」
「他校の彼女か!」
「てかクラマ?何それ?」


「あだ名ですあだ名」


部の先輩たちに蔵馬が弁明する。


(まずいですよここでは南野!)


(ハッ!)


蔵馬の無言の訴えに、顔を青ざめる未来。


「ごめん、ついうっかり…。とにかくこれを見て」


未来が差し出した紙の文面を読み、蔵馬の表情が曇る。


「外で桑ちゃんと飛影が待ってる。皆で幽助を助けに行かなきゃ」


「ああ」


仲間の危機に内心穏やかではない蔵馬だが、努めて冷静さを保ち未来にうなずく。


「すみません、先輩。ちょっと急用で先に帰らせてもらいます」


蔵馬はドアに手をかけ、未来と共に教室を出ようとする。


「変な言い訳しなくていいぜ。デートだろ」
「独り身のオレたちの分まで楽しめよ南野」
「部長の件、あきらめてないからな!」


蔵馬は肯定も否定もせず、いつもの微笑で先輩たちをかわすと教室を後にした。


「ねえ蔵馬、なんか色々誤解されちゃってるけどいいの?」


廊下に出て、未来は蔵馬に問いかける。


「気にしなくていいよ」


蔵馬がいいと言うのならいいのか…と未来はそれ以上追及しない。


「なんで蔵馬は生物部に入ったの?」


「一番楽で暇そうだったから」


やる気のない蔵馬の答えに、未来は吹き出す。


「蔵馬のそういうとこも私、イイと思うよ」


「それはどうも」


「あと、蔵馬に飛影の説得もしてほしいんだよね…」


おずおずと未来が切り出す。


「飛影がまんまと拐われた幽助に怒っちゃって、助けに行かないなんて言うんだ」


「…飛影らしいな」


「ほんと、心配じゃないのかな〜。…あ」


ほとほと飛影に困り呆れていた未来だったが、はたと気づいた。


「どうしたの?」


「いや、えーとね、私、勘違いしてたなあって」


様子が変わった未来に蔵馬が尋ね、彼女は口を開く。


「飛影は幽助が心配じゃないのかなって思ってたけど、だったら怒るわけないよね。どうでもいい存在だったら怒ったりしないもん」


幽助のことがどうでもよかったら、飛影は怒りもせず無反応だろう。


未来は魔性使いチームとの戦いが始まる際、皆に怒られたことを思い出していた。

心配だから、怒る。
大事だから、怒るのだ。

自分のことを真摯に考え怒ってくれる人がいるのは、幸せなことだと未来は思った。


「まあとにかく、蔵馬には飛影が幽助救出に参加するよう説得してほしいんだ」


「了解です。ところで…」


今度は蔵馬が話題を切り出す番だ。


「居場所が不明だった飛影を見つけることができたんだ。驚いたな」


「今日はたまたま飛影が会いに来てくれたの!びっくりでしょ?」


嬉しそうな未来とは反対に、蔵馬の表情は固い。


「…そう」


別に驚くことじゃない。
蔵馬にとっては。

飛影は未来が好きで、いつ彼女に会いに行ってもおかしくないと蔵馬は知っていたから。


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