long dreamA
□トライアングル
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「美味しい!」
熱々のグラタンを冷ましつつ、舌鼓をうち幸せそうな未来。
本屋に行った後、二人はあるイタリアンレストランでランチをしていた。
「じゃあ、食べ終わったらプラネタリウムね」
「そうだね、楽しみ〜!」
そこでふと、未来は考える。
(本屋だけど一緒に買い物して、ご飯食べて、プラネタリウム行って…これじゃあまるで…)
自意識過剰のようで、そこから先を言うのは憚れる。
(いや、蔵馬みたいに、からかうみたいなふざけた感じで言えばいいんだよ!)
努めて自然に、からかうような調子で言おうと未来は口を開いた。
「なんか、デートみたいだね」
蔵馬はすぐには反応しない。
ゆっくり顔を上げ、未来と目を合わせる。
(蔵馬…?)
窓から日の光を浴びこちらを見つめる蔵馬は、切り取って一枚の肖像画にできるくらい綺麗だった。
「オレは最初からそのつもりだったけど」
ドキッと未来の胸が高鳴る。
今までより、ずっとくすぐったくて甘い音がした。
だって、蔵馬の顔が真剣そのものだったから。
微笑をたたえてからかうような、冗談を言ういつもの蔵馬の顔じゃなくて…。
「そ、そっかあ。デートかあ。初デートの相手が蔵馬なんて貴重だな…。畏れ多い」
「畏れ多い?」
未来が発した単語を拾い、蔵馬は眉を寄せる。
「だって…蔵馬は素敵だから」
蔵馬は簡単にほどく。
隠していた秘密の心の楔を。
未来は先週の、雑踏の中でも目立ち華やいでいた蔵馬の姿を頭に浮かべる。
そしてそれは先週だけでなく、今日も同じだった。
「私も蔵馬の隣に立つ時に恥ずかしくないように、少しでも良くなりたくて…。美容院だって行ったし。前から行きたかったのもあるけど」
この前蟲寄市を訪れたのは、新しい服が買いたかったから。
前から春服が欲しかったのもあるが、今日、自分はその時買った新しい服を身につけている。
「ふっ…」
クスッと蔵馬が笑って、未来は赤面する。
「なんだ。未来だって、最初からデートだって意識してたんだ」
蔵馬に笑われて、穴があったら入りたい気分になりながらも未来は開き直る。
「意識しない方が変だよ!蔵馬みたいな人だったら尚更」
そうだ。
デートみたいだって意識したから、昼食もグラタンを選んだ。
パスタやピザは、食べ方に気を遣わなければいけないから…。
「嬉しい」
「え?」
「意識してたのが、オレだけじゃなくて嬉しい」
本当に嬉しそうに蔵馬が言うから、未来は何て返せばいいかわからなくなる。
それは初めて見る蔵馬。
いつもは大人びている蔵馬の、高校生である年相応の男の子の顔だ。
笑っていたのは、からかっていたのではなく、嬉しかったからなのか。
そう納得してしまいそうになる。
「未来の初デートの相手がオレで、オレの初デートの相手が未来で嬉しいよ」
しみじみと、気持ちを噛みしめるように蔵馬は言う。
(これもからかってるの…?)
からかってる。
そうに決まってる。
だって、あの蔵馬だ。
これまで仲間として接してきた、人をからかうのが大好きな…。
「今日の蔵馬、なんか変だよ…」
「そう?未来が今まで気づかなかっただけだよ」
気づかなかっただけ。
その意味がわかるほど、未来の恋愛の経験値は高くなかった。