long dreamA
□前兆
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「大丈夫?」
とりあえず公園のベンチに移動した未来と御手洗。
顔面蒼白で俯く御手洗の背中を未来は擦っていた。
「やっぱり病院行く?かなり辛そうだよ…」
やはりタクシーを拾おうかと公園の外側を未来が覗くと、轟音を鳴らしこちらに近づいてくるバイクの存在をとらえた。
バイクは公園内に侵入し、エンジンは切らぬまま未来らの前で停止する。
「良い医者を知ってるぜ」
乗っていたのは、高校生くらいだろうか、流れるような黒髪と切れ長の目が印象的な、眉目秀麗といった感じの青年。
「知り合い?」
「いや‥‥」
小声で未来が訊けば、御手洗が否定し首を横に振る。
「突然の激しい頭痛と吐き気。オレもつい先日襲われた」
「あ…同じ病気の方?」
突然の見知らぬ男の登場に警戒していた未来だが、御手洗と同じ症状を経験したとなれば心強い。
「医者(ドクター)たちのところへ連れてってやる。乗れ」
男は御手洗にバイクの後ろに乗るように促す。
しかし御手洗は動けないのと、遠慮するのとで首を振るだけだ。
(この人に御手洗くんを任せていいのかな。怪しすぎるよ)
未来はといえば、目の前の男に不信感が募る。
一度疑うと、些細なことも気になってくるものだ。
医者を“ドクター”と呼ぶのもどこか引っかかったし、看護師を指したのかもしれないが医者“たち”とわざわざ付けたのも不自然である。
なにより…。
「なんでタイミングよく現れて、こいつの症状を知っていて、しかも助けてやるのかって思うだろ?」
自分の疑問をピタリと男に当てられ、驚いた未来の目が揺れる。
「いずれ答えは分かる…。安心しろ、別にこいつに危害を加えるわけじゃない。医者(ドクター)のいる病院へ連れて行くさ」
男は嘘をついているようには見えないが、言葉の裏に何かありそうで未来の猜疑心は消えない。
「いずれ分かるってどういうこと?」
「さあな…。それもそのうち分かるだろ」
男は御手洗を引っ張り半ば強引にバイクの後ろに座らせる。
腑に落ちない彼の返事に、未来は眉を寄せる。
「こんなに早く出会えるとは思っていなかった。じゃあな、永瀬未来」
「なっなんで私の名前を…!」
名前を言い当てられた未来の反応が予想通りで愉快なのか、男は片方の口角をわずかに上げる。
「オレの名前も教えといてやる。刃霧要。能力名は狙撃手(スナイパー)」
そう告げるやいなや、男―いや、刃霧は御手洗を乗せバイクで走り去っていった。
取り残された未来は呆然と立ち尽くしていたが、すぐに我に返る。
(本当にあいつに任せておいていいのかな…!?)
数々の意味深な発言を連発した刃霧に御手洗を渡しておくのは、あまりにも危険なのではないか。
いてもたってもいられなくなった未来は、パッと道路に出るとちょうどやってきたタクシーを止めるため手を上げた。