long dreamA
□懸け×命×賭け
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左京に続き、暗い廊下を歩くコエンマと未来。
「コエンマ様、なんで左京の話を聞こうと思ったんですか?」
左京には聞こえない声で、未来は隣のコエンマに訊ねる。
コエンマがああ提案したのは何か考えがあってだと思い、未来はおとなしく左京についていくことにしたのだ。
「…あやつの眼が気になったのだ」
「眼?」
「あやつの眼は自分の命を何度もドブにさらしてきた人間の眼だ」
保身を考えない人間の抱く野望は、他人はおろか自分自身をも巻き込む巨大な破壊行為と相場は決まっている。
それがコエンマの持論だという。
「そんな人間が何を語るのか気になった。これで理由になっておるかの?」
「…はい。そうですね。私も気になります」
未来を精神的に追い詰めるゲームを持ちかけたり、命の取り引きを提案したり…
つかめない左京という人間が話す内容を、未来も聞いてみたいと感じた。
「そこの椅子に好きに腰をかけてもらっていいよ」
左京に案内された部屋は窓がガラス張りになっており、リングが一望できた。
「未来さん、君がいた世界はどんなところだった?」
「え…どうって…ここの世界とほとんど変わらないよ。あ、ただ、この世界みたいに妖怪が存在するとは思えないけど」
どうしてそんな質問をするのか疑問だったが、素直に未来は左京に答える。
「妖怪がいないのか…それはつまらないな。このつまらない人間界よりもっとつまらない」
左京は煙草をふかすと、心底残念そうに述べた。
「大〜きな穴がいい。魔界と人間界を繋ぐ界境トンネルをつくりたいんだ。優勝賞金を使ってね」
「なっ…左京、自分がどんなに危険な発言をしているかわかっておるのか!?」
左京の野望を聞いた途端、コエンマが激しく狼狽した。
「どんな邪悪な妖怪でも自由に通れる道ができたら、世の中もっと混沌として面白くなる」
「あのコエンマ様、普通は邪悪な妖怪は人間界に来れないんですか?」
「正解に言うと、邪悪というより妖力の強い妖怪、だな」
根本的なことを知らない未来に問われ、コエンマが説明を始める。
「偶然にできる一瞬のひずみから魔界と人間界の移動は可能だ。だがひずみは小さく、妖力の強い妖怪は通れんのだ」
なるほど、と未来が呟く。
「でも左京、そんなことしたら自分の命も危うくなるんじゃないの?」
「わかってないなあ。だから面白いんだよ」
愚問だと言いたげに左京は微笑をたたえ、あからさまに顔をしかめる未来。
すると左京がもう一度フッと片方の口角だけ上げて笑う。
「こんな思考狂ってる、と君は思うかい?」
「思うよ。思うに決まってる」
「どうしてこうなったんだろうな…」
自身の異常性を認め自嘲しているようでも、左京の瞳には後悔も憂いも何もない。
普通といわれる家庭に生まれ、親からも5人兄弟わけへだてなく愛情を注がれ育てられた。
しかし自分だけがこうなった。
「結局腐ってたのはオレのここ。誰のせいでもないオレの脳ミソさ」
ぽんぽん、と左京は自分の頭を指でつつく。
「それゆえ君も巻き込み命のかけを要求したのは悪かったよ」
(全然悪びれてるようには見えないけど)
口に出したら、また左京は笑うだろうか。
そう思いつつも、未来は試す気にはなれなかった。