long dreamA
□決戦のとき
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両チームとも選手の人数が足りないというアクシデントにみまわれたが、ようやくそれも解決し、試合開始を宣言しようと樹里がすうっと息を吸う。
「え〜決勝にのぞむ10人が決定したことですし、第一試合を始めまーす!」
いよいよ開始だ、と待ちくたびれていた観客達が騒ぐ中、リングに近づいたのは鴉。
これから蔵馬に起こることを象徴したつもりなのだろうか。
BANG!と自分の頭を銃で撃つしぐさをし、彼を挑発する。
「オレが行こう」
蔵馬が無表情を保ったままリングへと歩きだした。
「蔵馬、気をつけて。薬は…?」
「大丈夫。数分前に飲んだよ」
未来を安心させるためか一瞬笑顔をつくった後、蔵馬はリングに上がっていった。
(蔵馬、死なないで…!)
やはり決勝戦というと、これまでとは緊張感が違う。
未来はぎゅっと祈るように手をくみ、蔵馬の背中を見送った。
「楽しみだよ蔵馬。お前を殺すのが」
「死ぬのはお前だ」
リング上で向かい合う鴉と蔵馬。
「好きなものを殺すのは快感だ。好きなものの好きなものとなればより一層だろうな…」
未来の話を鴉が持ち出すと、蔵馬の目の色が変わった。
「その目だ。好戦的なお前のその目…私は大好物だよ」
樹里が始めの合図を出し、妖気を上げた鴉の手は電流がはしっているのかバチバチという音と共に光りだす。
「そのままでいいのか?むざむざ殺されにきたわけじゃないだろう?」
未来のためにも、と付け加えた鴉。
妖狐の姿にならなくてよいのかと彼は問うているのだ。
「じきにわかるさ。貴様を倒すためなら…」
蔵馬の手のひらから、無数の薔薇の花びらが彼を守るように舞いだす。
「なんにでもなってやる」
ヒラヒラと舞う花びら。
その中心にいる蔵馬。
蔵馬らしい美しい技だが、領域を侵す全てのものを切り刻む恐ろしい技でもある。
「妖狐に戻るまでの時間かせぎか」
戦いの際の蔵馬のクセと傾向を熟知している飛影が呟く。
「鴉に触れられると爆発しちゃうみたいだから、蔵馬は距離をとって戦うためにあの技を使ったのかな」
戸愚呂チームの準決勝戦を蔵馬と観に行っていた未来が推測した。
「刄のように研ぎ澄まされた花びらの布陣か…なかなか華麗だ」
躊躇せず風華円舞陣の中へ突入した鴉の頬を花びらが切り、一筋の傷をつくった。
「しかし脆弱だな」
にもかかわらず、鴉はおかまいなしに蔵馬へ近づく。
かと思うと、爆発を起こし蔵馬の花びらを燃やしつくしてしまった。
「何っ!」
鴉は花びらに触れてはいなかった。
予想外の展開に、蔵馬が思わず狼狽した声を漏らす。
「くく…お前は私の力を勘違いしているのではないか?」
全てを見透かしているかのごとく鴉が低く笑う。
「私が触った相手の体内に妖気を送りこみ内部破壊を起こす…とでも考えているのではないか?」
違うのか、とたじろぐ蔵馬と未来。