long dreamA


□波音、貝殻、薔薇の香り
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「こうすると、海の音が聴こえるんだよね」


未来は目を閉じ、貝殻を耳にあてふさいだ。


「海の音?」


「そう。波の音ともいうかな。貝のささやき、っていわれてるんだよ」


未来はその白い貝殻を今度は飛影の耳にあてた。


なるほど、ごわごわとした音が聴こえ、目を瞑ればまるで海の中にいるような錯覚におちいる。


「ね?聴こえるでしょ」


海音のそばで聴こえた未来の声が心地よい。


こうしていると、飛影はなぜか落ち着いた。


今はなき氷泪石を眺めていた際に感じた気持ちと似ている。


紛失してしまった、母親が流した涙からできたあの石だ。


「この音、赤ちゃんが羊水の中で聴いている音と同じらしいよ」


そういえば、と思いついたように言うと、未来が飛影の耳から貝殻を離した。


羊水が何か分からず、無意識に飛影は首を少々傾ける。


「胎児が母親のおなかの中で聴く音ってこと。飛影も赤ちゃんの時、お母さんのおなかの中で聴いてたんだよ」


ふふっと小さく未来が笑った。


母性を感じさせる、優しい笑い方だった。


飛影は未来の手のひらの上の白い貝殻をまじまじと見つめる。


「この貝は持って帰ろうっと」


ポケットに貝殻をしまう未来。


「さ、ホテルに戻ろう」


まだ悲しみから立ち直っていないのに、無理に笑顔をつくっているのが飛影にもわかる。


その時、飛影はある一筋の閃光をとらえた。


「未来、あれを見ろ」


飛影が空を指さし、未来が見上げれば…


「あれって…幽助の霊丸?」


おそらく幽助が、この森のどこかで霊丸を放ったのだろう。


まるで流れ星のように、地上から天頂へと大きな光のかたまりが上昇していっていた。


うっとりと見とれてしまうくらい、夜空に閃光がはしる様は美しかった。


「すごい威力。あんな霊丸、見たことない」


その光景に目を奪われ、未来が感心して呟く。


光は空高く高く上っていく。


まるで天へのぼった幻海へ届こうとしているかのようだ。


(幽助…)


未来は霊丸を見ていると、元気がわいてきた。


そんな彼女の表情を見ると飛影も安心し、ふたりはホテルまで戻ったのだった。


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