long dreamA


□波音、貝殻、薔薇の香り
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砂浜に座り隣り合う飛影と未来。


ザザーンと波音が響き、潮の香りがふたりの鼻腔をくすぐる。


「…っ」


未来は泣きはらした目をこすり、すくっと立ち上がった。


「帰ろうか。飛影」


そう言った未来同様、飛影も立ち上がる。


「もういいのか」


「うん。これ以上めそめそしてらんないよ」


きっと幻海も“いつまでも泣くな”と言っているだろう、と未来は思った。


泣きたいだけ泣いて、気持ちが落ち着きスッキリしていた。


(全部全部…飛影のおかげ)



“お前の声くらい、かき消す”


あの言葉がなかったら、未来は飛影の前でも泣くのをこらえ続けていただろう。


そして、何があったか尋ねられたくない…そんな未来の気持ちを察した彼。


ここに連れてきてずっと飛影は隣で寄り添ってくれた。


「飛影、ありがとう。隣にいてくれて。すっごくすっごく心強かったよ」


飛影は未来の手を握ったわけでも、抱きしめたわけでも、励ましの言葉をかけたわけでもない。

ただ、黙って未来の隣にいた。


たったそれだけのことなのだが、確実に未来の心を癒していた。


(変なの…師範のことで泣いてるとこ、飛影にも見られたくなかったはずなのに)


礼を言われ何と返せばいいかしばらく迷っていた飛影も口をひらく。


「みえみえのやせ我慢をオレの前でするのはやめろ」


ほかの誰の前で未来が感情を隠そうとしても、自分の前では我慢しないでほしい。


心から、そう思った。


「うん。わかった。ありがとう」


気づけば、また“ありがとう”と口から出ていた。


感情をおし殺しさなくてもよい、と言ってくれた飛影が未来は嬉しかった。


「ここ、本当に綺麗なところだね」


波打ち際へ歩く未来。


「綺麗な貝殻もたくさん落ちてる…」


未来は慈しむような細い目をして砂浜に落ちている白い貝殻を拾った。


未来はまた、幻海のことを想っているのだろうか。


月明かりに照らされるその姿が、とても儚くみえて…飛影は思わず未来に近づいた。


すると確かに未来はそこにいて、飛影はほっと安堵する。


(バカか、オレは…)


未来が消えてしまいそうなんて考えが頭をかすめた自分を飛影は恥じた。


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