long dreamA
□PIERROTの贈り物
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中には3つのベッドが置かれており、比較的小さな病室だった。
未来が入ってすぐ目があったのが…
「死々若丸!」
「なんだ貴様…バカデカイ声で人の名前を呼びやがって」
窓際のベッドの上で上半身だけ起こしている彼の姿に、つい叫んでしまった未来はハッと口をふさぐ。
「だっているとは思ってなかったから…」
死々若丸にお礼を言わなければならないこと、彼に聞きたいことがあることを未来は思い出した。
いつものことなのだが、先ほどのように死々若丸から憎まれ口を叩かれてしまうと、素直に礼を言うのもしゃくになってくるというものだ。
「う〜なんでオレがあんな奴に…」
ドア側のベッドでは魔性使いチームの吏将がうなされていた。
どうやらまさかの桑原に負けたことが相当ショックだったようだ。
そして真ん中のベッドにいるのが、未来の知らない金髪のわりとハンサムな男性。
「ねえ死々若丸、私は鈴木に呼ばれて来たんだけど、どこにいるの?」
キョロキョロと未来はあたりを見回すが、彼らしき人物はどこにもいない。
「なっ…未来!ここにいるだろう、ここに!」
金髪の青年が、自分こそが鈴木であると主張した。
「うそ!あなたが鈴木!?」
怨爺の正体がピエロだった時といい、鈴木には度肝を抜かされてばかりの未来である。
さすがは千の姿を持つ男、美しい魔闘家鈴木、だ。
「ねえ鈴木、なんで私を呼んだの?」
「いや、ただもう一度未来に会いたくてな…」
ストレートにそんなことを言われ、甘い言葉に慣れていない未来は、どう反応してよいか分からずポリポリと自分の頬をかく。
ピエロ鈴木に言われるならまだしも、今のハンサム鈴木に言われては照れてしまうのも仕方あるまい。
(まあ鈴木は自分が一番みたいだし、私に対する“好き”は本当の恋とは違うと思うけどな)
冷静に彼からの気持ちを受け止める未来。
彼女の憶測も、あながち間違ってはいないだろう。
そして未来は次に死々若丸の方に向き直る。
「あの、死々若丸…いきなりだけど、お礼言いたくて。昨日の夜、黒桃太郎から助けてくれて…本当にありがとう」
そう言って、深々と頭を下げた。
あの時死々若丸がどんな形であれ黒桃太郎を止めてくれていなかったら、未来は心にも体にも深い傷を負うことになっていただろう。
彼からいくら憎まれ口を叩かれていても、未来はけじめとして礼を言っておきたかった。