long dreamA
□トリートメントはしているか
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未来、桑原、蔵馬、飛影、幻海がぞろぞろと闘技場から出てくると、木の下で螢子にもたれかかって寝ている幽助を発見した。
傍には陣、凍矢、酎、鈴駒がいる。
「あ!未来たち!」
鈴駒がパッと笑顔になり、トコトコと未来たちの元に駆けてきた。
そんな子供らしい素振りをみせる鈴駒に、未来もキュンとする。
「鈴駒!もう試合終わっちゃったよ〜。陣たちはずっと待ってたみたいなのに」
「だって酎が二日酔いでなかなか起きなくて、ノロノロしてるからさ〜」
「なっ…寝坊したのはお前もだろ!?罪をオレになすりつけんじゃねぇ!」
ぐびっと寝起き酒を飲み、酎が鈴駒に言い返す。
「もちろん勝ったんだろう。おめでとう」
「よかったっちゃ!浦飯チームには勝ってもらわねーと困るからな」
凍矢と陣が浦飯チームの皆を祝福する。
「浦飯、もう部屋に戻んぞ」
桑原が島に上陸した時と同じように、寝ている幽助の肩をかつぐ。
こうして総勢11人でホテルへと向かうことになった。
「螢子ちゃん、なんかこうやって話すの久しぶりだね」
「そうですね。武術会が始まってから未来さんと話してませんでしたから」
未来は隣を歩いている螢子に話しかけたが、両者の間にはどうも気まずい雰囲気が流れている。
「あのさ、前から言おうと思ってたことがあって…。私、幽助と一緒の部屋に泊まってるけど、何もないからね!」
未来の発言に、螢子はやや斜め下に視線をおとしたまま目を見開く。
「好きな人がほかの異性と同じ部屋に泊まるのなんて嫌だよね。私が螢子ちゃんの立場だったらすごく嫌だ。螢子ちゃんの幽助に対する気持ちを私は知ってるのに、こうして螢子ちゃんを裏切る形になって…ずっと謝りたかった」
申し訳なさそうに、おずおずと言葉を紡ぐ未来。
螢子はしばらく黙っていたが…
「ふふっ…あはは…」
「け、螢子ちゃん!?」
突然笑い始めた螢子に、未来の声は裏返る。
「笑ってごめんなさい。ちゃんと言ってくれて、ありがとうございます。正直言うと私、未来さんに少し嫉妬してました」
やっぱり、と未来はタラリと冷や汗をかく。
「ううん、本当は少しどころじゃなかったかもしれません。優勝商品となった未来さんを守るために、幽助と同室じゃなきゃいけないって頭では理解していたのに」
そんな自分が嫌になった、と語った螢子だが、そういった感情を抱くのは誰かに恋をしている者なら当然だろう。
彼女の気持ちは、未来だってよくわかった。
「でも、さっき…そういうの本当にどうでもよくなる出来事があって。嫉妬なんて感情が溶かされていったんです」
そう言った螢子は、すがすがしく吹っ切れた顔をしていた。
「何があったの?」
「幽助が…」
未来に尋ねられるも、螢子は顔を赤くし答えない。
「やっぱり言いません!」
「え〜ケチ!」
“いてーな螢子てめー。いつまでもガキ扱いしてんじゃねーよ…”
幽助が寝言で自分の名前を呼んでくれたからなど、螢子は言えるわけがなかった。
あまりにも単純すぎてバカらしい理由だとも思ったし、恥ずかしいと自覚もしている。
…だけど、恋ってそういうものなのだ。
好きな人の一挙一動でとても幸せにもなれるし、地獄に落とされた気分にもなれる。
未来が本当の恋を知るのはいつになるのだろう…
もしかしたら、彼女の“恋”は案外すぐ近くまで来ているのかもしれない。