long dreamA
□死出の羽衣
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美しい、としか形容のしようがなかった。
銀髪の妖狐から、幼い少年へ…そして未来の知る南野秀一の姿へと。
幻想的な煙の中、変化していく蔵馬に未来は目を奪われる。
未来自身も、幼児から元の体の大きさへと戻っていった。
「なんと銀髪の妖怪の正体は蔵馬選手でした!彼の背後にいる小さな少女は未来さんだったようです!」
実況小兎もこれは意外だった。
「未来、立てる?」
蔵馬が後ろを振り向き、腰を抜かしてぺたんと座りこんでいる未来に手をかす。
「うん、ありがとう…」
蔵馬の手をとると、じ〜っと彼の顔を探るように見つめる未来。
「…オレの顔に何かついてます?」
「いや!そうじゃなくて…本当にあの妖狐は蔵馬本人だったんだなあって」
目の前にいるのはもう妖狐ではなく、未来が今まで接してきた蔵馬の姿。
「ちゃんと戻ってくれて、なんか安心した。めちゃくちゃびっくりしたよ!いきなり妖狐の姿の蔵馬が現れてさあ…」
頭では同一人物だと理解していても、いきなり仲間の外見が変わったらやはり違和感があるというものだ。
「オレだって驚いたよ。気づいたら小さくなった未来が目の前にいたんだからね。…なんでリングの中に飛び込んだりしたんだ」
最後の一言は少しトゲのある口調で真剣な表情になった蔵馬に、言葉に詰まった未来の瞳が揺れる。
そんな未来を見、蔵馬は責めるような言い方をしたことを後悔した。
「うん。ごめん。本当は分かってたよ。未来はオレのことを助けようとしてくれたんだって」
未来なりに、蔵馬のことを考えての行動。
蔵馬は分かっていたのだが、彼女を大切に思うがゆえに少しキツくなってしまった。
「未来に危険なことをしてほしくない。未来に何かあったらと思うと、気が狂いそうになる」
つらそうな顔をしながら、絞り出された彼の本音。
蔵馬の言葉、表情に、未来の胸は打たれる。
「…そんなの、私だって同じだよ。蔵馬に何かあったら…考えたくもない」
想像するだけで身震いがする。
それくらい蔵馬は未来にとって大事な存在になっていた。
「蔵馬が危険な目にあってたんだよ…助けに行くのは当然だよ。蔵馬を守ることができたのは、あの時私しかいなかったから…」
大事に思ってくれている蔵馬に胸が熱くなりながら、未来は一言一言、かみしめるように言葉を紡ぐ。
自分だって蔵馬のことがすごく大切なのだと、彼に伝えたい。
蔵馬は一生懸命話す未来を見つめる。
(未来…)
ぐっと胸に愛しさが込み上げる。
“助けに行くのは当然”
自分が未来に対して思っていたことを彼女も思ってくれていたと知り、ただ単純に嬉しかった。
「あの〜次の試合を始めたいので、早くリングから降りてください」
困っている樹里の発言に、ハッとする蔵馬と未来。
「す、すみません!蔵馬急がなきゃっ!」
オーバーに慌てて蔵馬の手を引きリングから降りる未来の姿に、彼はくすっと笑ってしまう。
妖狐のような妖艶さはないが、その代わり柔らかく優しい笑みだった。