long dreamA
□想い
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がし、と未来は飛影の腕をつかむ。
飛影が驚いて未来の方を振り向き、ふたりの目線が絡まった。
(…なんだろう、すごく久しぶりに飛影がこっちを向いてくれた気がする…)
実際、飛影とのいざこざがあったのは昨日の出来事なのだが。
真っ正面から飛影の顔を見て、掴んだ彼の腕からぬくもりが伝わって…
襲われた時の言い表せないほどの恐怖とか、それから解放された安堵感とか、仲間が来てくれた安心と嬉しさとか。
諸々の感情が、洪水のように未来の中で溢れだす。
「……っ……」
ひっこめたくても、ぽろぽろと未来の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「未来…」
突然泣き出した未来に、飛影はどうすればいいのか分からない。
ひとりの時間が長すぎた彼は、慰め方なんて知らなかった。
「ご、ごめ…」
未来は両手で顔を覆い、必死で涙をこらえようとする。
蔵馬がそんな未来を落ち着かせるように、ぽんぽんと彼女の背中を叩いた。
「未来。言いたくなかったら何があったかは言わなくていいよ。だが…」
「だ…大丈夫…! 何もされてないから…!」
涙をぬぐい、顔から両手をはらうと、ぶんぶん首を横にふる未来。
「部屋ン中に未来ちゃんを泣かせた奴がいんのか!?」
こめかみに青筋をたてる桑原が扉を睨む。
「ううん、悪いのは黒桃太郎と魔金太郎って奴だけで…。怨爺さんや裏浦島は普通に接してくれてた。あと死々若丸って人も一応…」
死々若丸に関しては微妙だが、一応危害は加えられていないので未来はそう言っておいた。
「…その黒桃太郎と魔金太郎は今どこにいるんだ?」
「わかんない…」
静かに尋ねた蔵馬だったが、彼の内は未来を傷つけた黒桃太郎らへの怒りでみなぎっていた。
「くっそ〜!今すぐぶっ倒してやりたいのによ!奴等め、明日の準決勝で覚えてろよ!」
桑原がボキボキ拳を鳴らす。
「…本当に何もされてないんだな?」
唯一未来の事情を知っている飛影が問う。
彼が邪眼で見ていたのは途中までで、その後起こったことについては把握していない。
「うん。蔵馬からもらった植物でね、退治しちゃったから!」
大丈夫、ということを示すように未来が笑顔をつくる。
(?? 未来ちゃんは奴等に殺されそうになったんだよな、きっと)
「桑原くん」
未来の涙の理由を定められず、尋ねようと口を開いた桑原を蔵馬が制した。
蔵馬が聞くな、と訴えていると悟り、桑原は疑問に思いつつもおし黙る。
(殺されそうになったなら、そう未来は言うはずだ。だが未来は…)
だが未来は、明確に何があったか述べようとしない。
もし未来が“女”として襲われたのなら、自分たちには言いたくないだろうと蔵馬は配慮したのだった。
「あ、そういえば、なんで皆、ここに駆けつけてくれたの?」
あまりにもタイミングの良すぎる三人の登場が未来は不思議だった。
「飛影が邪眼で奴等が悪さしねーか見張ってくれてたからな!」
まるで自分の手柄のごとく言った桑原。
「飛影が…?」
飛影は未来の視線から逃れるように目をそらした。