long dreamA
□逆玉手箱
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「しかける瞬間オレが体勢を崩す。それが合図だ。ひと思いにやってくれ」
すぐには返事をせず、しばらく考え込む蔵馬。
「…わかった。だが殺しはしない」
これが未来を襲おうとした黒桃太郎や魔金太郎が相手であれば話は別だが、蔵馬には裏浦島に与えるだけの情があった。
「存在理由が変わっても生きていけるさ。オレがいい例だ」
「…ありがとう。あんた優しいな」
ヒュ、ヒュ…
「うっ…」
何度かお互い武器で応戦した後、裏浦島がわざと躓いた。
(よし!)
それを合図に蔵馬が攻撃をしかける。
だが。
ニヤリと笑った裏浦島。
ブシュウッッ
攻撃がくるとは思っていなかった蔵馬の身体を、鋭い竿で切り裂いた。
「ぐっ…」
「蔵馬あ!」
痛みに倒れる蔵馬に、未来が悲鳴をあげる。
「フハハハハ!こうもカンタンに信じるとはなァーこいつ!あんたの人の良さは致命的だぜ!」
蔵馬をコケにし、可笑しくてたまらないと涙を流して裏浦島は笑う。
「蔵馬を騙したの!?」
汚いやり方を使う裏浦島に、未来はふつふつと怒りを沸かせる。
「この張り巡らされた糸には気づいたか?今までの攻撃はお前を倒すためというより、お前を結界内に閉じ込めるためのものだったのさ」
裏浦島の言葉通り、蔵馬はリングから出られなくなってしまっていた。
裏浦島はいかにも竜宮城でもらえそうな箱を取り出した。
「裏御伽闇アイテム逆玉手箱!物語では箱を開けて主人公が年をくっちまったが、これは逆に若返る。オレ以外の奴がな」
「それって結構うらやましいんじゃ…」
「需要ありそうだよな」
まだ若い未来と桑原だが、逆玉手箱に魅力を感じてしまう。
「オレはオレより顔がよくて背が高い奴が大嫌いでなァ。テメーみたいな奴はいつも得をしやがるからな。特に女関係は」
過去によっぽどな何かがあったのだろうか、恨みたらたら、ねちっこく蔵馬に言う裏浦島。
「昨日だってそうだ。黒桃太郎たちから聞いてるぜ、未来。死々若丸とさぞ楽しんだんだろうなァ。散々よがらせてもらったんだろ?」
「は!?」
裏浦島から飛び出た驚愕のセリフに未来は焦る。
「なっ…違う違う違う!誤解!何もしてないし!されてもないよ!」
唖然とする桑原、蔵馬、飛影の視線が痛い。
未来は必死で裏浦島が言ったことは事実無根だと否定した。
(死々若丸も否定するくらいしてよ…!)
未来の思いもむなしく、死々若丸は顔色をまったく変えず、ただ平然と試合を見ているだけであった。
「なんだよ違ったのか?まあどっちでもいいけどよ」
裏浦島は未来から蔵馬に向き直り、逆玉手箱に手をかける。
「ところであんた、その名前変えた方がいいぜ。ひとり同じ名前の妖怪を知っているが、そいつはオレ以上に悪党だった…。間違えられたことねぇかい?」
「蔵馬、って名前の妖怪がほかにもいるってこと?」
「みたいだな…」
これからの展開に緊張しつつ、未来と桑原は小声で話す。
「目つきだけはそっくりだぜ。テメーは胎児にまで戻してやる!グチャミソに潰しくさってくれるァー!」
逆玉手箱からもくもくと煙が上がり、結界で囲まれたリング上を包んでいく。
「た、胎児!?」
その単語に未来は息を飲んだ。