long dreamA
□奇美団子
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出たのは“自由”と“黒桃太郎”の目。
「自由の目は選手を勝手に選べる。もちろんオレがやるぜ」
「待て飛影。オレがやろう」
飛影に待ったをかけたのは蔵馬だ。
「…オレがやる。全員オレが倒してもいいくらいだ」
名乗りをあげた蔵馬に少し驚いた飛影だったが、黒桃太郎との試合だけは譲れなかった。
それは蔵馬も同じで。
「君はさっき一人倒しただろう。次はオレだ」
「あんなザコ、倒したうちに入らん」
「ちょっと二人共!仲間内で争ってどうすんの!?」
好戦的な二人の気持ちがさっぱり理解できない未来である。
「…飛影」
しばらく考えた未来は、ちょいちょいと飛影を手招きした。
二人で皆から少し離れる。
「なんだ」
「あのさ飛影、黒龍波が撃てないのに大丈夫なの?なんか黒桃太郎、策があるみたいだったからさ…」
小声で話しかけた未来に、飛影は露骨に顔をしかめる。
「や、やっぱ怒った!?でも心配で…」
「だから蔵馬に譲れとでも言いたいのか?」
分かりやすいほど不機嫌になった飛影が、未来をまっすぐ見つめる。
「ふざけるな。お前を傷つけた奴等はオレがぶっ倒してやる。絶対にな」
言い切った飛影。
未来は飛影のセリフに目を見開く。
そんな未来の様子から、思わず本音を口にだした自分に気づかされた飛影はハッとなる。
「…とにかく、奴には黒龍波を使うまでもない。試合はオレがやるからよく見ておけ」
ごまかすように未来から離れ、リング中央に戻っていった。
「……」
未来は黙って彼の背中を見送る。
(びっくりした…飛影があんなこと言ってくれるなんて。私を大切な仲間だって思ってくれてる、って考えちゃってもいいよね?)
自惚れじゃないよね?と未来は自問自答する。
(だとしたら、すごく嬉しい!)
つい口元がほころんだ。
(…飛影のさっきのセリフは私が仲間だから出た言葉だよ。そんなのわかってるし、私も飛影のことは仲間としてみてるけど)
飛影を子供扱いしてからかうことも多かった未来。
だが今は…
(私今…初めて飛影にどきどきしてる)
リングに立つ飛影を真っ正面から直視できず、横顔をこっそりと見つめる。
胸の高鳴りを知られたくなくって。
薄く染まる頬に気づかれたくなくって。
(飛影に…どきどきしてるんだ…)
普段は素直じゃない彼の真っ直ぐな言葉に、未来の心臓は反応してしまう。
そこで、我にかえる未来。
(だ〜何考えてんの私!?深いイミはないんだってば!ただ飛影が意外なコト言うからびっくりして、ちょっとドキドキっていうよりドギマギしちゃっただけ!!)
ぶんぶん首を横に振りながら、桑原と蔵馬の元へ戻った。
「飛影はすっごく戦いたいみたいだから、蔵馬!今回は譲ってあげてくれないかな」
ここは飛影の気持ちをくむべきでしょう!と思った未来は手を合わせ、蔵馬に懇願する。
「え…」
ほかの誰でもない…未来から頼まれて蔵馬は、柄にもなくそれ以上言葉が出ない。
魔金太郎と黒桃太郎…未来を傷つけたこの二人を倒したい気持ちは蔵馬だって持っていた。
しかし、あろうことか未来に飛影参戦をすすめられてはどうしようもない。
「飛影が相手か。オレもあのチビを殺してぇと思ってたんだ」
黒桃太郎がリングにあがり、両者が向かい合った。