long dreamA


□邪眼師飛影
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只今、404号室には三人の男たちがいた。


「あー!落ち着いてられねーぜ!」


すくっと座っていたソファーから立ち上がる桑原。


「テメーらは未来ちゃんが敵と一緒にいるってのに、どうして平気でいられるんだ!?」


桑原は窓辺にいる飛影、ソファーに座る蔵馬に言い放つ。


「しっ!桑原くん、静かに」


「あ?」


口元に人差し指を立てた蔵馬に、桑原は怪訝な顔をする。


「今、飛影が邪眼を使っている最中なんです。千里眼には、けっこう集中力がいるようですから…」


小声で話しながら、蔵馬はちらりと飛影を見やる。


飛影は眼帯を外しており、現れた邪眼が怪しく光っていた。


「邪眼を使ってるって…もしかして未来ちゃんの様子を見るために?」


「だろうね。飛影は未来が危険な目にあわないか見張っているんだ」


飛影の両目は固く閉じられていて、邪眼に意識を集中させていることが伺える。


「飛影は寝てんのかと思ってたぜ。蔵馬、よく飛影が邪眼使ってるって気づいたな」


「予測してましたからね」


飛影は邪眼を使うだろうと、蔵馬は未来がスパイ任務を命令された段階で予見していた。


それが未来と離れた状況下で、飛影にできる唯一の彼女を守る方法だったから…。


「あの飛影が人の為に邪眼を使うとはなあ」


心底意外だ、という表情の桑原。


「…本当に、前の飛影なら考えられませんね」


飛影の未来に対する気持ちが大きく育っていっていることに、蔵馬は複雑な感情を抱くのだった。


そのように飛影の心や行動はお見通しな蔵馬。


だが、飛影の方は蔵馬の未来に対する気持ちには気づいていないだろう。


蔵馬は、自身と未来の事だけ考えられる飛影が羨ましくも思った。


「おい飛影!オメー未来ちゃんの為に邪眼で奴等を監視するたあ、イキなことするじゃねーか!」


飛影とは言い争いが絶えなかった桑原だが、今回の彼の行動には感動しているらしい。


「桑原くん、静かにって言ったのに…」


蔵馬が言うも、もう遅い。


集中力がきれた飛影は両目を開け、桑原らの方に顔を向ける。


その顔には、うるさい、と書いてある。


「飛影、未来ちゃんとはケンカしたっぽかったのに、やっぱり未来ちゃんのことほっとけねーんだな!」


お構い無しに桑原が続け、わずかに飛影の顔が動揺でこわばった。


「飛影、未来ちゃんを傷つけるか幻滅させるかでもしたか!?早く謝って仲直りしろよ!」


桑原に図星をつかれた飛影。


傷つける。幻滅。
心のどこかで危惧していたことを、桑原に言い当てられた。


「貴様に指図される謂れはない」


「何をぅ!?」


「桑原くん、あまり飛影を刺激するようなことを言わない方がいい」


飛影に掴みかかろうとした桑原を、蔵馬が諫める。





ザァアアァ……


とたん、勢いよく降りだした雨。



飛影はふと、雨が地面を打ちつける窓の外の光景を眺める。


意識だけは、邪眼の先にいる未来に向けながら。



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