long dreamA
□すれ違い
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ゲームが終了し、観客席にいた妖怪たちはぞろぞろと去っていく。
「いや〜ひとまず解決してよかった!ワシは霊界獣の卵を見に行ってくるぞ」
「それでは失礼します〜」
コエンマとジョルジュ早乙女が闘技場から出ていった。
彼らを見送った後、最初に口を開いたのは未来。
「もう蔵馬には、なんてお礼言ったらいいのかわかんないや…」
蔵馬と目を合わす。
「蔵馬のおかげでゲームは勝てたし、鈴駒たちも助けてくれて…ありがとう」
自分の代わりに蔵馬は鈴駒と酎の命を背負ってくれたと、未来は思っていた。
「オレも未来に礼を言いたい。未来がゲームに勝ったからこそ、オレと左京との取引は成り立ったからね」
「前に蔵馬からコツを聞いてたから勝てたんだよ!蔵馬の願いを使わすことになっちゃって、申し訳ないな。桑ちゃんも…」
ほかに叶えたい願いがあったかもしれないのに、蔵馬と桑原の願いを取り上げる形になってしまった。
「オレは別に気にしてねーぜ!未来ちゃんのおかげで桐島たちが助かったからよ、感謝してるぜ」
サンキュー、と桑原。
「オレは逆に、願いを使う口実ができてよかったかな」
「どういう意味?」
さりげなく言った蔵馬に、未来はハテナマークを浮かべる。
「だって未来にオレの願いを、“未来を元の世界に戻す”にしてくれと頼まれても、断ることができますから」
「え」
(…気をつかってくれてるのかなあ)
その蔵馬の微笑みが本気なのか、冗談なのか…未来は読めない。
「蔵馬、オイラも礼を言うよ。ありがとう。絶対優勝してよ!」
鈴駒がトコトコと駆け寄ってきた。
「未来、大変だったな」
「うん、まあね」
話しかけてきた凍矢に未来は苦笑いする。
凍矢は人質を利用する大会本部のやり方が気にいらなかった。
そしてそれは、彼の隣に立っている…陣も同じだ。
「結局、オレは未来になんもしてやれなかっただな〜」
「そんなことない!!」
自分でもびっくりするくらいの大声で、未来は陣の言葉を否定していた。
陣も、周りの皆も驚いて目を見開く。
「陣は私の為に左京や観客の妖怪たちに怒ってくれたでしょう…?すごく嬉しかった…ありがとう」
気持ちを噛みしめるように言った未来。
誰も正さずに受け入れていたことを、陣はちゃんと“おかしい、間違っている”と怒ってくれた。
それがどれだけ未来は嬉しかったか。救われたか。
「それに陣は、私の夢も叶えてくれたしね」
ふふ、と笑う未来。
陣と空を飛ぶのは楽しかった。
「そうけ…よかっただ!」
ニッと太陽みたいな笑顔を陣は未来に向ける。
そんなふたりを凍矢は目を細めて見守っていたが…
(蔵馬の光も、未来なのだろうな)
爆拳と蔵馬の試合後の一件が頭を掠める。
「……」
蔵馬は黙ってふたりを見ていた。
心にわきあがるモヤモヤとしたものを顔には出さずにいられるくらい、自分は冷静さを保ててはいる。
だが、陣に微笑みかける未来を見て、確かな焦燥感に駆られていた。
(…らしくないな)
そしてまた、もう到底無視できないほど大きくなってきている彼女への感情に気づかされるのだった。