long dreamB

□鏑vs軀
1ページ/6ページ


本選の火蓋が切られる前に、大会主催者を代表して幽助による開戦の挨拶が行われた。


『ここまで残った奴らだからもしかすっと死んでもいいぐれーの覚悟で戦うつもりの奴もいるかもしれねーけどよ』


ステージに立ち、マイクを握る幽助を見守る妖怪たちの中に鏑もいた。


(幽助、すごいなあ…)


仲間の晴れ舞台に、誇らしい気持ちになる。


トーナメントという方法で、魔界をまとめてみせた幽助。
今日、飛影に会うチャンスを得たのも彼のおかげだ。


『正直言って死人は出したくねーんだ。やっぱ後味もよくねーしな』


何度でも挑戦し、何度でも戦いたいから。
極めて幽助らしい理由だった。


『実のところオレ今回優勝する自信はねーが二年後ならかなりいけると思うし』


「戦う前から負け惜しみか幽助ー!」


飛ばされた酎のヤジに、鏑はクスリと笑ってしまう。


鏑とは、適当に妖怪らしい名前を考えあてがった偽名だ。
本名でエントリーすれば大会主催者である幽助に止められるのは目に見えていたので、偽名を使ったのだ。


未来が選手になったことは誰も知らない。
もしかすると特訓に協力してくれた裏女は、大会に出場しようという未来の思惑に勘付いていたかもしれないが。


無謀だと止められるのを危惧し、大会に参加することは誰にも告げずにここまで来たし、覆面で顔を隠し変装もしている。邪眼避けに呪符も貼った。



全部一人で決めて、一人でやり遂げたいという未来の意地だ。
これは他の誰でもなく、自分のための戦いなのだから。



今一度覚悟を決めて、未来はまた幽助を眩しそうに見つめる。


『もちろん優勝した奴が決めることだけどよ、できれば何年か毎にこうやってバカ集めて大将決められたらいいんじゃねーかと思ってる』


次戦の相手は軀。
これは運が良いのか悪いのか。
避けられない縁めいたものを感じてしまう。


『誰が勝ってもスッキリできる気がするんだ。んじゃおっ始めよーぜ!』


幽助の挨拶を皮切りに、魔界統一トーナメント本選が始まった。







早々に決着がついたDブロック一回戦第一試合は、酎が対戦相手の棗という選手をナンパして幕を閉じた。


「見損なったぜあの馬鹿たれがー!バトル野郎の風上にもおけねェ」


怒り心頭の鈴駒だったが、彼もまた対戦相手の流石ちゃんにメロメロになり敗北するという結末を迎える予定である。


「次は鏑と軀の試合だべ」


「あいつ棄権しなかったのか。相当のアホだな」


「軀と戦えるチャンスなんてそうそうないべ。棄権するのはもったいないだ!」


自分の実力を過信していると、鏑に命知らずのレッテルを貼った死々若丸。対して陣は、棄権するなんてもっての外だと言う。


「凍矢、もう闘技場の近くで待機していた方がいいんじゃないか?頑張れよ!」


Cブロック一回戦第二試合が控えている凍矢を、鈴木が声援と共に送り出す。


「あ、ああ。そうだな。行ってくる」


鏑の試合が気になる凍矢は、後ろ髪を引かれる思いでCブロックの闘技場の方へ向かう。


(鏑の正体が未来だなんて、オレの思い過ごしだといいが…)


この心配が杞憂に終わってほしいと願う凍矢なのだった。


「幽助たちだべ!」


Dブロックの試合を映すモニター前で酎の試合を観戦し駄弁っていた陣たちは、こちらへ来る幽助、蔵馬、飛影の姿を見つけ手を振った。


「酎の試合観に来たんか?もう終わっちまったぞ」


「い!?まじかよ!」


「でも次の試合も面白そうだっちゃ」


陣がモニター画面を指させば、そこには向かい合う軀と鏑が映っていた。


「軀の試合か。鏑って奴は何者だ?」


「幽助、鏑の予選試合観てなかったんか?」


「ああ。蔵馬と飛影は?」


「オレも観てません。飛影もですよね?」


「……ああ」


蔵馬に問われるも、心ここにあらずだった飛影は反応が遅れた。


一向に見つからない未来のことが気にかかり、悶々としていたのだ。
はっきり言って軀の対戦相手なんてどうでもいい。軀の圧勝に決まってると飛影は思っていた。


「聞いて驚くだよ。鏑も未来と同じ闇撫だったんだべ!」


『Dブロック一回戦第二試合。鏑vs軀。始め!』


小兎による試合開始のアナウンスが流れたのは、その時だった。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ