long dreamB

□雪菜
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聞き間違えるはずがない。
あれは全部、確かに飛影の声だった。


軀に呼ばれた理由がやっと分かった。



“あいつが何をしようがオレには関係ない”



あの言葉を、私に聞かせるためだったんだ。




ただひたすらに未来は走った。
何度か足がもつれて転げそうになって、辿りついた先の扉を勢いよく開く。


「未来ちゃん!?」


外には、使い魔の隣で参考書を広げ勉強中の桑原が待っていた。


「どうした?飛影は一緒じゃねーのか?」


仲間の異変に気づかない桑原ではない。
ひどく青白い未来の顔を心配そうに覗き込む。


「……帰る」


「は!?」


まさかの未来の一言に、桑原は絶句する。


「帰る時間だって知らされたから」


「時雨様に会いましたか?その通りです。帰還の時間となりました」


早口で述べた未来に、軀や時雨から命令を受けている使い魔が同意する。


「おいおい中で何があった!?紙袋持ってねーってことは、チョコは渡せたのか?」


「なくした」


「なくし…!?」


あんなに大事そうに抱えていたチョコを、あろうことか“なくした”とは。


百足に入る前と後で豹変した未来の様子に、混乱する桑原である。


「飛影とは会ってきたのか!?」


“関係ない”


桑原に問われ、飛影の言葉がフラッシュバックした未来は聞きたくないとでも言うように両手で耳を塞いだ。


「会ってない!会いたくない!もういいよ、早く帰らせて…」


「未来ちゃん、こっち向け!」


ずっと俯いていた未来の肩を、ガシリと桑原が掴む。


「何があったか言いたくないなら言わなくても構わねー。けどな、断言する!ぜってーこのまま帰ったら未来ちゃんは後悔する!」


しっかり未来と目を合わせて桑原は叫んだ。


「あんなに飛影に会うの楽しみにしてたじゃねーか。なのに会ってこなくていいのか?」


今度は優しく諭されて、未来の瞳にじわじわと涙がたまっていく。


「私…だいぶ己惚れてたみたい……」


「未来ちゃん!?」


泣き始めた自分に桑原があたふたしている姿が、涙でどんどんにじんでいく。


少なくとも仲間としては飛影に好かれていると思っていた。
今日会ったら、飛影は驚きつつも喜んで歓迎してくれるだろうと。


とんだ自惚れだった。


飛影は軀が未来を呼んだことに怒っていた。
くだらない用事で呼びつけるなとまで言っていた。


「飛影は私に会いたくないみたいだった……。この耳で聞いたの」


飛影に嫌われても仕方ないほどには、知らないうちに自分は彼を傷つけてしまっていたらしい。


“単純だ。飛影を殺した女のツラを一度拝んでみたかったからだ”


殺した女、と軀には称された。
それが本当なら、どんな顔をして飛影の前に立てばいいのか分からない。


会えるわけないと、未来は思った。


「桑ちゃんごめんね。せっかく付き合ってもらったのにこんなことになって」


受験勉強で忙しい中、桑原はここまで付き添ってくれたのに未来は申し訳なくてたまらなかった。


「あいつが素直じゃねーの知ってるだろ?何か事情があるに決まってる!」


「軀様の指定された時間を過ぎています。早く帰ってもらわないと」


「うるせェ!このまま帰れっか!」


幻海邸へと続く空間の穴を開け、待っている使い魔に急かされるも反抗する桑原。


「オレもついてってやる!なんならふざけたこと抜かす飛影の奴を二、三回ぶん殴ってやるからよ!もう一回中入って飛影に会いに行こうぜ!」


桑原の提案に未来の瞳がわずかに揺れたその時、突如二人をぬっと大きな暗い影が包んだ。


「な、なんだこいつ!?裏男!?いや女か!?」


目の前にいる妖怪は、かつて出会った樹のペット・裏男と酷似した容姿だが、長いまつ毛は女性であることをうかがわせる。


「な!?」


使い魔も裏女の出現は予想外であったらしく、激しく狼狽している。


「きゃ…」
「うおっ!?」


裏女が大きな口を開け、抵抗する間もなく未来と桑原はその中に放り込まれたのだった。


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