long dreamB

□リリック
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未来の両肩を掴み身体を離すと、だから、と飛影が続ける。


「ずっとオレのそばで笑っていろ」


真っ直ぐに未来を瞳に映して飛影が告げた。


未来は飛影を見つめたまましばらく何も言えなかったけど、たちまち両の口角をあげて。


「もちろん!」


花のような笑顔を咲かすと、勢いよく飛影の首に抱きついた。


「さっき言ったでしょ?ずっと一緒だよって。もし飛影が嫌がっても離れてあげないから」


その仮定のありえなさが可笑しくて、飛影が小さく吹き出した。


「本当にずっと一緒か」


「うん!」


コツンとおでこをくっつけあって、飛影が問えば未来が頷く。


「一生だな?」


「そうだよ!もー、飛影ったら疑ってるの?」


真面目な顔で念押ししてくる飛影が可愛くて、ちょっぴり呆れた笑みをこぼす未来。


確認し終えた飛影が懐から取り出したモノに、未来は数度瞬きを繰り返した。


「ちょっ…飛影、これどっから盗ってきたの!?」


「パトロールで得た報酬だ」


未来の懸念に反して、どうやら飛影が正当にもらったお金らしい。


「人間界で暮らせるくらいの額はあるか?」


ドキンと大きく未来の胸が跳ねた。


「あると思うよ…」


飛影が何を言いたいのか察して、未来の心臓が早鐘を打つ。声が震える。


「来年から一緒に住みたい」


月明りに照らされた飛影と、彼の後ろに広がる星空が美しい。


彼の告白を聞きながら、なんてことを未来は思った。


「飛影。もしかしてさっきのプロポーズだった…?」


「一生と言っただろ。……お前、我慢してるのは自分だけだと思うなよ」


受験勉強のせいで会える頻度が減って、寂しいとよくこぼしていた未来。


毎日会いたいと、もっと一緒にいたいと思っていたのは飛影も同じだった。


「…っ……」


「未来?」


みるみる瞳に涙をためていく未来に、ギョッとし焦る飛影。


「ちょっとびっくりしちゃって…嬉しくて…」


飛影がちゃんと考えていてくれたこと、そんな風に思ってくれていたこと知らなかった。


突き上げるような喜びが、未来の胸をいっぱいにして涙へと変わっていく。


「私、絶対大学受かるよ。来年春からアパートでも借りて一緒に住みたいな」


元々大学生になったら一人暮らしをしてもいいなと考えていたので、飛影の誘いは嬉しい申し出だった。


「五人で撮った飛影の分の写真、部屋に飾ってさ」


飛影から雪菜へ、雪菜から未来へと渡ったそれを、二人の帰る場所に置いておこう。


「受からんと許さんからな」


「うん」


頑張ろう。
飛影のためなら、何でも出来る気がした。
闇撫の修行に明け暮れていた時の気持ちを思い出す。


「じゃあ、合格したらうちの家に挨拶行かなきゃね。お母さんも皆、飛影に会いたがってるから喜ぶよ」


だいぶ涙の落ち着いた未来の頬に残った滴を、飛影の指がすくって拭う。


「あ、飛影のお母さんにも報告しに行こっか」


「いらん。この前行ったばかりだろ」


また飛影と未来が氷河の国へ赴くことがあれば、それはいつになるのだろう。


もしかしたら、ふたりの大事な相手がもう一人増えた時かもしれない。


ずっと一緒にいる約束を交わした彼らは、これから家族になるのだから。


「未来」


涙の跡をなぞるようにして、未来の頬から唇へと飛影がキスをする。


「愛してる」


求めるばかりが恋ならば。
与えたくなるのが愛だろう。


未来の大切なもの全て、飛影が守りたいと思ったように。


「私も。愛してるよ」


飛影のためなら、何でも出来ると未来が思ったように。


「春が楽しみだなあ…」


また未来が飛影の一番大好きな顔をしたから、つられて飛影も口元を緩める。




それは、ずっと忘れない笑顔。
そして、ずっと離さない笑顔。


このとき胸に刻まれた互いの笑顔を、ふたりはいつまでも覚えていて。


たまに思い出したように未来がこの日のことを口にする度、飛影は「そうだったか?」なんて照れくさそうにとぼけるのだった。






*fin*


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