long dreamB
□リリック
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「あいつ成績落ちたりして」
「大丈夫。オレが保証しますよ」
微笑ましい再会を見届け、桑原家を後にした幽助ら四人が夜の住宅街を歩いている。
「じゃあ、オレたちはこれで」
この曲がり角で、反対方向に自宅がある蔵馬と幽助とはお別れだ。
「今日、すごく楽しかった。またね」
五人で集まるのはかなり久しぶりだったのに、まるで昨日も会ったみたいなノリで皆と話せるのが不思議だった。
きっとこれからも、そうなのだろう。
今度会うのがいつになっても。何年先でも。
五人はまた、いつものように笑いあえる。
「おう。じゃあな」
「未来、受験応援してるよ」
「うん!頑張るよ」
幽助と蔵馬の背中が見えなくなるまで手を振った後、何気なく未来は夜空を見上げた。
「今日は星が綺麗だね」
未来につられ、飛影も空を仰ぐ。
今日が雲一つなく晴れた日だったからだろうか。
それとも、今までもこんな夜はあったのに飛影が気づかなかっただけだろうか。
息をのむほど美しい満天の星空が、二人の頭上に広がっていた。
「あーあ。またしばらく飛影と会えないのか。寂しいな…」
受験勉強のため飛影と会う頻度を減らさざるをえなくなり、最近よく未来は寂しいと口にしていた。
星空の美しさが、切なさを助長させる。
「飛影、ごめんね。私の都合で…」
「別にお前のせいじゃないだろ」
納得できていない部分はあるだろうに、そう言ってくれる飛影の優しさに未来は救われている。
「今日、すっごく楽しかったね…」
また星空を見上げて、噛みしめるようにして未来が言った。
幽助がいて。
蔵馬がいて。
桑原がいて。
当たり前に隣には飛影がいて。
本当に、本当に楽しかったから。
だから。
「帰りたくないな…」
こんな夜は、ぽろっと本音がこぼれてしまう。
「未来」
「飛影」
互いの名前を呼ぶ二人の声が重なった。
「…なんだ」
「飛影に渡したいものがあるからこの後ちょっと時間ある?って言おうとしたんだけど…」
先に言えと飛影に促され、おずおずと未来が切り出す。
「オレもお前に話がある」
「え?」
未来は首を捻りつつ、飛影と共に近くの公園に入りベンチに腰をおろした。
「やっぱ昼間と雰囲気違うね」
しんと静まり返っているそこは、未来と飛影がデートでたまに使っていた公園だった。
百足では誰が聞き耳をたてているか分からず落ち着かない、鈴木の薬はいまいち信用しきれないという二点の理由から、飛影は未来が魔界へ行くのを嫌う。
そのため、二人の逢引場所は幻海邸や公園などの人間界に限っていた。
「そうだ、渡したいものってのはね」
忘れる前にと、ごそごそとバッグから未来が保冷材と共に包んだ袋を持ち出した。
「ガトーショコラ!チョコのケーキだよ。勉強の息抜きに作ったんだ」
バレンタインに作ったものの、百足で失くしてしまい飛影に渡せなかったという苦い思い出のある菓子だった。
「来年のバレンタインは受験の真っ只中で凝ったものは渡せないだろうなって気づいたら、作っちゃってた」
まじまじと驚いたように、かつ探るような視線をケーキへ飛影がおくっているのに気づき、未来が首をかしげる。
「あ、今食べられない?もうお腹いっぱい?」
「…いや」
じゃあ食べよう!とフォークや紙皿を未来が持ち出す。
もぐもぐ食べている飛影の感想を、ドキドキしながら未来は待つ。
「美味しい?」
「これと似たような物を、前に食ったことがある」
疑いが確信に変わった飛影が述べれば、未来が目を丸くする。
「え、どこで!?魔界にもガトーショコラって売ってるの?」
「たしかお前が百足へ来ていた日に、時雨からもらった」
飛影の返答は、未来にとってまるで予想外で。
「え、えー!それ絶対私が作ったやつだよ!時雨さん渡してくれてたんだ…!飛影にちゃんと渡せてたんだ!」
飛影から事の詳細を聞き、全ての合点がいった未来は甚く感動しているようだ。
「でさ、その時どう思った!?美味しかった!?」
「味気なかったな」
「え」
喜び難い感想に、未来のテンションは急降下した。