long dreamB
□リリック
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夜も更け、幽助が店を畳み今日はお開きと思われて。
「さ、帰るか。ん?」
帰ろうとしていた桑原は、コソコソ集まっている三人衆に気づいた。
「この後のこと、わかってるよな?」
「未来、飛影には…」
「うん。ちゃんと黙ってたよ」
何やら小声で話している幽助、蔵馬、未来らに、桑原と飛影は怪訝な顔つきである。
「おい。何を話している」
「ちょっとね」
飛影の質問をはぐらかす未来の表情は、何故か楽しそうだ。
「このまま解散ってのもあれだしよ、今から桑原の家で二次会しようぜ」
「はあ!?別にいいけどよ」
気前良く家出し許可が出て、五人は桑原家へ向かった。
「よォ、いらっしゃい」
到着すると、二メートル近い背丈の桑原の父親に迎えられリビングへ通された。
「話は聞いたぜ。霊界が重い腰を上げたんだってな」
ワイルドな雰囲気の桑原父も、妖怪が人間界を自由に行き来できるようになったと知っているらしい。
「カズ、お前も異文化とのコミュニケーションに協力するよな」
「ん?ああ」
「異界との親善に助力するんだな」
「うるせーな。わかったって」
「よし!決まった入っておいで」
息子の承諾を得た父親が呼び掛ければ、ガラッと部屋の扉が開いた。
「ゆっ…ゆゆ雪菜さん!?」
「今日からうちにホームステイすることになった雪菜ちゃんだ」
思いがけない想い人の登場に、桑原は腰が抜けてしまっている。
「……未来。知ってたな」
目を真ん丸くして茫然としていた飛影が、ギロリと未来を睨み付ける。
「ごめんね!飛影はさ、桑ちゃんちに雪菜ちゃん住んでも別にいいよ〜ってホントは思ってても素直になれなくて、ダメって反対しなきゃ気がすまないでしょ?」
「だから飛影のためを思って、決行まで内緒にすることにしたんですよね」
「なんだその通りは!!」
無茶苦茶な未来と蔵馬の言い分に、激しく憤慨する飛影である。
「幽助くんたちと相談して静流も快諾した。カズ、異存はねェだろ」
幽助、蔵馬、未来らは桑原家の面々と結託し、密かに雪菜ホームステイ計画を進行させていたのだ。
「浦飯テメ、オレのいねェ間に…」
夢のようなサプライズにしてやられた感いっぱいで、顔を真っ赤にした桑原が幽助へ詰め寄っている。
「ホラホラ、桑ちゃんがあっち向いてる隙に!飛影、雪菜ちゃんに渡したいものがあったんでしょ?」
未来に背中を押され、雪菜の前に軽くつんのめった飛影。
「飛影さん。お久しぶりです」
ニコッと雪菜に微笑まれ、後に引けなくなった飛影は渋々妹へ向き直った。
二人きりにしてやろうと、そっと未来と蔵馬が彼らから距離をとる。
「お前の兄は見つからなかった」
雪菜から預かっていた母の形見の氷泪石を首から外し、飛影が差し出す。
「そうですか…」
氷泪石を受け取った雪菜の表情に影が落とされる。
しかし、その影はすぐに消え失せた。
「この氷泪石は、いつか私自身の手で兄に渡すことにします。あなたが兄なんですねって」
「もうくたばってるかもしれないぜ」
「いいえ……絶対にその日は来ます」
飛影の赤い瞳の奥を見つめて、力強く雪菜が述べる。
雪菜から受けるその眼差しに、飛影が気づくのはもう少し先のことだろう。
「未来さんとお揃いの氷泪石、身につけてくださってるんですね」
飛影が首に下げているピンク色の紐で結ばれた氷泪石に雪菜が気づく。
最初は三つあった飛影の氷泪石は氷河の国で一つ減り、今日また一つ減って雪菜の涙で出来たものだけになった。
「雪菜さーん!」
「和真さん!これからよろしくお願いします。ごめんなさい、いきなりで」
「何水くさいこと言ってるんですか雪菜さんっ」
「お疲れさま」
桑原が雪菜の元へ駆けてきて、一人になった飛影の隣へ静かに未来が寄り添った。
「桑ちゃんがそばにいたら、心配いらないよ」
久しぶりに再会し談笑している桑原と雪菜は、とても幸せそうだ。
未来にも飛影にも、桑原はもちろん雪菜の喜びはその笑顔からありありと伝わった。
「実はちょっと寂しい?」
「あ?」
ふざけた問いに、眉を吊り上げる飛影。
勘違いするな。
まだ認めたわけじゃないからな。