long dreamA
□忌み子飛影
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軀軍の移動要塞・百足。
昼夜問わず血生臭い戦いが繰り広げられるそこで過ごしていると、日付感覚なんて失い行事ごととは無縁になる。
それが人間界のイベントなら尚更だ。
だから今日がクリスマスイブ…
聖なる夜なんて知るはずもなく、飛影は戦闘に明け暮れていた。
男の赤子…忌み子…
忌み子じゃ…!
氷女たちのひっそりとした騒ぎ声がひっきりなしに耳元で聞こえる。
注がれるのは恐れと軽蔑の眼差し。
目を合わせニヤリと笑ってやると氷女たちは面白いくらい怯えた表情をする。
女児は同朋じゃ
しかし男児は忌み子
必ず災いをもたらし氷河を蝕む
冷たい冷たい氷河の風。
炎の妖気を纏っていたのに、凍てつく吹雪の感触を、今も忘れないのは何故なのか。
落ちていく。
氷河の国が遠くなっていく。
腹の底から嬉しくて自然と笑みがこぼれる。
生まれてすぐ目的ができた。
飛影!
場面は変わり、こちらへ微笑みかけるあいつの顔。
行くな
あの時と同じように掴んだ腕を強く握る。
返ってくる応えは知っているのに。
……えっと……
瞬間、さあっと急速に身体が冷えていく。
ああ…またこの夢か…
「起きたか」
降ってきた声に、パチリと飛影は瞼を開けた。
周りにはゴロゴロ無数の死体が散らばっており、ああ自分が倒した奴らかと眠る前の記憶を呼び覚まし理解する。
「もうA級妖怪じゃ束になってもかなわねェな」
感心したように呟いて、近づいてきたのは軀だった。
「たった半年でここまで成長するとは正直思わなかった。お前たいした奴だ」
「強くなるほど貴様が遠くなっていく気がするぜ化け物め。一体貴様どんな妖怪でどんなツラしてやがるんだ?」
「まあそう急くなよお前の親父なんてオチはねェ。だがそろそろ姿くらい見せてもいい頃かな」
軀は頭部を包帯でぐるぐる巻きにし、いくつもの呪符を貼って顔を隠していた。
窺えるのは、そのギョロッとぎらつく丸い片目だけだ。
「今からオレの直属戦士を連れてくる。そいつに勝ったらお前に姿を見せ、褒美の品をやろう」
側近である77人の厳選された戦士のうち、一番弱い一人と飛影をサシで戦わせようと軀は提案した。
「そいつの代わりに戦士の称号もくれてやる。多分今のお前と互角くらいの力の持ち主だ」
「いちいち気に障る野郎だ。別に称号なんぞいらん」
「そう言うな。オレ直属の戦士ってだけで大抵の妖怪は協力的になる。便利だぜ」
それに、と軀は続ける。
「探し物も見つかりやすい…」
全て見透かした様な視線を向ける軀に、ざわりとした不快感が飛影の心を撫でる。
(つくづく薄気味悪いヤローだ)
軀が去った後、飛影はぼそりと胸の内で呟いた。
ふと、胸の真ん中に下げられた二つの石を眺める。
一つは古く綻びも目立った白い紐で。
一つは真新しい、薄ピンク色の紐で繋がれている。
どちらも半年前、妹から受け取った氷泪石だった。