long dreamA


□スリーセブン
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「未来、飛影…」


この場で唯一自分が縋れる相手である二人の方を振り返り、天沼が消えそうな声で助けを求める。


「天沼くん!」


天沼のブロックが天井まで積み上がる寸前だ。
それに気づいた未来が天沼の方へ駆け出す。


天沼の手が未来へ伸ばされたと同時、ゲーム終了のブザーが鳴る。


『ゲームオーバー!ゲー魔王の負け!』


ゲームバトラーを模した部屋が消えた代わりに、洞窟にはゲーム機の傍らに絶命した天沼が横たわっていた。


小さな身体を、しゃがんだ未来はそっと抱きしめる。


(泣いちゃだめ、泣いちゃ…)


すでにこらえきれない涙が頬をつたっているのだが、未来は必死で嗚咽を抑える。


蔵馬の前で未来は泣けなかった。


自らの手で天沼を殺めるしかなかった蔵馬。
彼もまた、想像を絶する痛みとつらさ、悔しさを抱えているだろうから。


(私があの時もっと強く腕を掴んでいれば…離さなければ…)


ひたすらに自分を責め、未来は激しい後悔に襲われる。


「未来」


そんな彼女に、静かに話しかけたのは御手洗だ。


「天沼に寂しいのかって聞いてたよね。ボクも同感だった。いつも強がって…きっと寂しくて、自分を見て欲しかったんだよ」


御手洗が言葉を一つ一つ慎重に選ぶようにして、天沼を抱く未来の背中に語りかける。


「未来が天沼を諭していた時、天沼はうんざりしてたようだったけど、ボクにはどこか嬉しそうにも見えたんだ。ちゃんと怒られたことも少なかったんじゃないかな」


賢く成績優秀で、幼い頃から手のかからない子供だったであろう天沼。


どんな形であれ、自分を見てかまってほしかったのではないかと御手洗は思う。


「だから、えっと何が言いたいかというと…天沼は最後に未来に会えてよかったと…救われた部分があったんじゃないかとボクは思うんだ」


御手洗の言葉が胸に染みて、ぽろぽろまた未来は大粒の涙をあふれさせた。


「蔵馬…」


幽助が、立ったまま微動だにしない蔵馬の元に歩み寄る。


そして冷たい光を放った蔵馬の瞳を見ると、ぞくっと背中に悪寒がはしり後ずさった。


「先を急ごう」


蔵馬の一言で、未来はめそめそしていられないと涙を拭う。


「未来、あんたは桑原を人質に仙水に呼ばれてんだろう。気をつけて行ってきな。あたしと海藤は洞窟の外で待ってるよ」


「…はい。師範、天沼くんをよろしくお願いします」


未来は天沼の遺体を幻海に託し、すくっと立ち上がった。




残酷な手法を強いられ、後味の悪い勝利となった天沼戦。


洞窟は、彼らの胸中を表しているかのように暗く憂いに満ちていた。




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