long dreamA
□スリーセブン
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(仙水さんがオレを犠牲に…そんな…そんな)
動揺する天沼は、ゲームに集中するどころではなくいつもの腕前を発揮できずにいた。
“すげーや仙水さん。オレと互角以上に戦える人と初めて会ったよ!”
ゲームで自分と張り合う大人との出会いは、新鮮でワクワクさせられた。
“つまらない世の中をひっくり返して面白くしてやろう。バカな親、バカな教師、バカな同級生。うんざりしてるだろ?”
どうしてこの人は自分の考えていることが手に取るように分かるんだろう。
仙水さんは、他の大人たちとは違う。
オレの唯一の理解者だ。
いつしかそう思うようになっていた。
それに。
“お前の能力が必要だ”
嬉しかった。
頭のてっぺんからつま先まで喜びが駆け巡って、心が満たされていった。
人から認められ求められることに、自分はこんなにも飢えていたのかと思い知った。
“天沼くん、寂しいの?”
認めたくなかったけれど、未来の問いには図星を突かれた。
ラップがかかった夕食の隣に置かれた母親からの置き手紙。
“月人へ。今日も遅くなります。温めて食べてね!”
朝、さりげなく食卓テーブルに置いてから登校した満点の答案には、何も触れられていなかった。
ずっと誰かに自分を見て欲しかった。褒めてほしかった。
だからそれを叶えてくれた仙水さんの誘いにのってしまったんだ。
「ね、ねえ!何か方法はないかな!?」
ゲーム操作しながら、藁にも縋るような思いで天沼は対戦相手の蔵馬に策を請う。
「ゲームの途中で領域(テリトリー)を解く方法は?」
「ダメなんだ。オレ自身がゲームの登場人物になっちゃうと、どちらかが負けるしかなくて」
「オレは負ける気はない」
天沼の方を一切振り向かず、モニター画面を見つめたまま蔵馬がバッサリと言い渡した。
「君は仙水の計画を知っていた。君に責任がないわけじゃない」
「こんなことになるなんて思ってなかったんだよ。オレ…まだ死にたくないよ」
近づく死への恐怖と絶望に、震える天沼の目から涙がこぼれる。
“三人でここから出よう。天沼くんを奴らの仲間のままにしておけないよ”
真剣な厳しい瞳で、強く自分の腕を掴んでくれた未来の手をとっていればと、激しい後悔に駆られる。
今朝、未来が作ってくれた朝食はあったかくて美味しかった。
誰かと食卓を囲むのは久しぶりで、嬉しくて楽しいひとときだった。
(なのに、どうして…)
それでも今自分が恋しいと思うのは、母親の作る冷たくなった食事。
忙しい中でも毎日置き手紙を添え食事を用意してくれた両親の優しさに、今頃気づいたってもう遅い。