long dreamA
□領域-territory-
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唖然としているのは飛影だけではない。
剣が海藤に当たる前に折れるというまさかの展開に、他三人も意表を突かれていた。
「この部屋はもうオレの領域(テリトリー)だ。この中ではオレのルールを守って戦うしかないんだよ、キミ達は」
海藤は両手を広げ、この部屋は自分の領域だと主張する。
この空間の中では乱暴な行動はできず、彼の定めたルールが全てなのだという。
言葉が力を握る空間。
それを作り出すのが、海藤の能力なのである。
「ルール…。あの貼り紙のことか」
『あつい』と言ってはいけない。
これがルールであると蔵馬は気づく。
(この部屋に入った時に感じた違和感は、彼のテリトリーってやつに入ったからなのか)
未来も不思議な違和感の正体に勘づいた。
「飛影くんだっけ。剣技と妖術拳法のすごい使い手なんだってねェ。だけどオレの領域(テリトリー)の中じゃキミただのチビだぜ」
海藤にただのチビ呼ばわりされた飛影の眉がわずかに歪む。
「な、なんと命知らずな…!」
「あいつの度胸ハンパねーな…!」
一種の感銘を受けている未来・桑原コンビであるが、
「飛影!挑発だ!のるな!」
蔵馬だけは海藤の意図を察し、飛影に助言する。
しかし、蔵馬の忠告もむなしく。
「“あつい”と言ったから何だというんだ!?オレが“あつい”と言えば貴様がオレを殺せるとでもいうのか!?」
まんまと海藤の思惑通り、挑発にのってしまった飛影。
「あーあ、言っちゃったね」
ドクン、と飛影の身体が青いオーラを帯び、絞りとられるようにそれが抜けていった。
「飛影!どうしちゃったの!?飛影!」
石のように動かなくなった飛影に未来が悲痛な声で叫び、キッと海藤を睨みつける。
「飛影に何したの!?」
「言い忘れてたけど」
飛影の身体から出たオーラは、吸い込まれるように海藤の手の中におさまる。
「言ってはいけないことを言った人はね、魂をとられちゃうの。オレの領域(テリトリー)の中ではね」
愉快そうに海藤は飛影の魂を手のひらで転がす。
「飛影…そんな…」
魂をとられた、なんて。
未来の目の前は真っ暗になった。
「さあどうする?帰る?戦う?」
これで人質は二人になった。
残された桑原、蔵馬、未来の三人は海藤に選択を迫られる。
「お前に勝てば飛影の魂は元通りになるんだな」
冷静さを崩さない蔵馬が海藤に問う。
「さあねェ〜。負けたことないからわかんないや」
「っ…!」
飛影の魂がとられ、不安な未来の感情に海藤の発言が拍車をかける。
暗黒武術会では無敗で全勝し、最強説さえ持ち上がっていた飛影の呆気ない敗北に、未来は混乱していた。
「とにかく帰るかオレと戦うか。二つに一つ。キミらの意志にまかせるよ」
「いや!選択肢はもう一つあるぜ!」
第三の選択肢を桑原が自信たっぷりに掲げる。
「もう一つの選択肢…!?」
期待を込めた眼差しで、桑原を見上げる未来であるが。
「飛影のことはほっぽって先に進む!これしかねェ!」
桑原のセリフを聞いた瞬間、ガクーッと盛大にズッコケた。
「何言ってんの!飛影の魂をそのままにしておけるわけないでしょ!」
「んなの蔵馬の忠告を無視したコイツの自業自得だ!そんなバカの面倒をいちいち見てられっか」
「で、でもさ〜…。とにかく私は飛影を見捨てていけないよ」
桑原の言うことも一理あるが、魂の抜けた飛影を置いていくなど、もってのほかの未来。
「うん、オレもそれが一番いいと思うな」
桑原の意見に賛成したのは、驚いたことに敵である海藤だ。
「キミ意外と頭いいね」
「なんか素直に喜べねーなクソ!」
テメーに褒められる筋合いはねえ、とばかりにシャーッと海藤に牙を向ける桑原。
(なんじゃいこのやり取りは…)
場にそぐわず緊張感を欠いた二人のやり取りに、未来は脱力する。