●●●●永遠- After - 平日の朝、いつもより早く目が覚めた。 1人の、朝。 昨日、一昨日とあった彼の姿は流石に、ない。 久々に、寄り添うように過ごした休日。終わってしまった後はいつも味気なく、砂を噛むような寂しさだけが残るのが常だけれど……今日は違う。 沢山笑いあったから?―――それもある。 お休みのキスがいつもより長かったから?―――それも、ある。 朝の光のたっぷり満ちた部屋で、晴香は僅かに寝癖のついた頭をもう一度枕に落とした。 見慣れた天井を見上げ、両腕を上げて大きくひとつ、伸びをする。それを下ろそうとして途中で止め、指を開くようにして…左手を目の前にかざした。 薬指に煌めく、石のついた指輪。 ――――約束の、証。 「ふふっ」 途端に、晴香の唇が綻ぶ。 綻び、微笑み、にっこりと大きく笑み崩れて…がばっとシーツの中に潜ると、彼女は感極まった悲鳴を上げて両脚をバタつかせた。 だって、『あの』八雲が。 絶対こんな事しそうにない、彼が。 それどころか、指輪の意味すら分かっていなさそうな、彼が! 複雑な家庭で育った人だから、結婚なんてきっと望まないだろうと思ってた。 傍にいられるのならば、周りが何と言おうと形にはこだわらずにいようと思ってた。 そんな彼から、まさかのプロポーズ。 『…晴香――――…』 耳に蘇るのは、甘く響く、低くて優しい彼の声。 「きゃーーーー!!」 両手で赤くなった頬を押さえ、ベッドの上を転がりまくる。 嬉しい。恥ずかしい。嬉しい。恥ずかしい。 嬉しい恥ずかしい嬉しい! こんなにも想われていた事が。こんなにも舞い上がっている事が。 こんなにも、想っていることが。 こんなにも、恥ずかしくて、嬉しい。 キャーキャー騒ぎながら、右に左にごろごろごろごろ転がって、息が切れた頃漸く止まる。ぱたりと仰向けに転がり、そしてもう一度、指を開くようにして……魅入る。 「キレイ…」 朝日を浴びて、清々しく澄んだ空気のように輝くそれに思わず呟きが漏れる。 好みもサイズもバッチリ、こういう時に外さない感性は流石と言うべきか。一体いつからこんな事を目論んでいたのか、結局聞けずに濃密な週末は終わってしまったけど。 まあいいか、と晴香は独りごちた。 聞く機会は幾らでもある。 これから先、それこそずっと…一緒に居れるのだから。 ずっと、一緒。あの仏頂面と。 出会った頃、想像すらしなかった未来が今、そこにあるなんて。 ああ、また頬が緩んじゃう。 「困ったなー。これ見る度ににやにやしちゃいそう」 だからといって、外したくない。 学校で子供達に何か言われても、同僚の先生にからかわれても。 ずっと着けていたいのだ、もっとシンプルなものがここに嵌まるその時まで。 新しく出来た暖かな悩みを胸に、晴香はもう一度にっこりと微笑んだ。 それはそれは、幸福そうに。 END. |